んっ美味し♪
それから愛美は、俺が中学時代はそれなりにモテていた事や、若気の至りでファッション選びに失敗した事などを話した。
特に女子にモテていた話をしている時のサヤの喰いつきは凄まじく、目に見えてやきもきしながら傾聴していた。
俺はと言うと、所々で文句を差し挟みつつも、サヤが楽しそうだったので、結局最後まで止めたりはしなかった。
話は思ったよりも和やかな雰囲気のまま終了しようとしていた。
「そういえば水輝は中学生の頃、日記をつけていた時期があったよな」
「おいやめろ。その話は蒸し返すんじゃない」
ところがそうやって終わりかけた頃、博之が爆弾を投下してきた。
確かに俺は当時、陸上部に所属していて、トレーニングの記録をつける為に日記を書いていた。
日記には学校での出来事についても書いてあり、中には黒歴史と言っていい内容もある。
俺としては掘り起こして欲しくない過去だ。
「確かまだどこかに保管してあったよな? 神崎に見せてやったらどうだ?」
「余計なお世話だ! ってかなんでお前がそんなこと知ってるんだよ」
「別になにもやましいことはしてないぞ。以前、遊びに来た時に、お前がトイレに行ってる隙を見計らって棚をあさっていたら見つけた……なんてことはないからな」
「人ん家でなんてことしてんだテメー!」
まったく、油断も隙もないとはこのことである。
「えー私も見てみたいなあ」
そうこうしていると、博之が焚きつけたせいで、サヤがその気になってしまった。
「駄目、あれだけは絶対に誰にも見せるわけにはいかないんだよ」
サヤが興味を持つのも理解出来るが、アレは決して人に触れてはならない代物だ。
触れたら最後、地獄のような苦しみが未来永劫続くだろう……俺が。
その後は他愛もない会話に終始して、昼になる頃には二人共、さっさと帰っていった。
「じゃあね水輝、サヤちゃんによろしく言っといてね」
「ああ」
「そうそう日記についてだが、隠すのならクローゼットの中にしたほうがいいと思うぞ。ちゃんと鍵もかけてな」
「お前はもう黙れ」
玄関で二人を見送った後、鍵を閉めてサヤの待っている自室に戻る。
ところが扉を開けた途端、サヤがなにやら戸棚を開けようとしているところを目撃した。
「あ」
サヤはイタズラがバレた時の子供のようにポカンと口を開けて固まる。
「……なにをしているのかな、サヤさん?」
「ど、どうも……」
「もしかして俺の日記を見ようとしてた?」
「えっと……そのぉ……」
目が泳いでいる。
その反応が肯定を示していた。
「言っておくけど、いくらサヤでも日記を勝手に見たら最低一週間は口きいてやんないからな」
「ううぅ……ごめんなさぁい。やめようとしたんだけどつい我慢できなくなって……」
本当に博之は厄介な奴だ。
清廉潔白なサヤにまで悪影響を及ぼすのだから。
「もうしないって約束する?」
「うんする。みーくんが嫌がることは私もしたくないし。なんなら昔みたいに指切りしてもいいよ」
「いや、そこまでしなくても信じるよ。サヤは滅多に嘘つかないし」
相手が博之なら話は別だがな。
「あ、ちょっと待ってみーくん。頬っぺにホイップクリームついてるよ」
「えっ嘘?」
さっきシュークリームを食べていた時についたのだろうか。
「どこについてる?」
「動かないで……」
次の瞬間、いきなりサヤが顔を近づけてきて、俺の頬についてるクリームをペロッと舐め取った。
当たり前だがシュークリームを食べている時に、クリームがつくのはだいたい口の周りである。
「なっ!?」
生暖かい感触が唇付近を伝い、背筋がぞわっとする。
一瞬の出来事で抵抗する暇も無かった。
「んっ美味し♪」
啞然とする俺を尻目に、口の端にチラッと舌を出して無邪気に笑うサヤ。
「何でそんなに平然としていられるんだよ!?」
「フフフッ」
なんだか日記の件を誤魔化されたような気がした。
もしやサヤは意図的にやったのか?
いやまさかな……。
なんだか末恐ろしいものを感じる。
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