君の傷つけ方なら知っている

三愛紫月

結婚生活なら知っている

里依紗の話①

「ごめん、これ以上は無理なんだ。ごめん」


結婚三年目を迎えた今日、私、七村里依紗ななむらりいさは、七村譲ななむらゆずるに離婚届を差し出されていた。


「嫌だよ!私、離婚しないよ」


「ごめん。不妊治療してまで、里依紗の子供が欲しいと思えないんだ」


「子供はいらないから、だから譲。離婚なんて言わないでよ」


「ごめん」


譲は、ごめんしか言わなかった。


「まだ、離婚したくない」


「それなら、少しだけ待つから」


「少しって?」


「3ヶ月」


3ヶ月で、私に譲を嫌いになれと言うの…。


こんなに、愛してるのに…。


「新しい人が、出来たの?」


「いない」


「嘘よ!そうじゃなきゃ」


「愛してるかわからなくなったんだ」


平然と私の目を見て、譲はそう言った。


「どうして」


「結婚してから、子供、子供って言われて…。排卵日だからこの日にとか、排卵日まで待ってねとか、俺は里依紗と結婚したんだよ!子供が欲しいから、里依紗を選んだんじゃないんだよ」


ポロポロ泣くのは、譲なの?


「もしも、治療して妊娠出来ても、俺はその子を愛せないと思うんだ」


「どうして?」


「もう、愛してるかわからないんだ。ごめん」


私は、そんなにも譲を追い詰めてしまったの?


結婚したのが、35歳だった。


正直、焦っていた。


周りにも、早く不妊治療をするべきだと言われた。


でも、それが譲のプレッシャーになったらいけないって思ったから…。


私、三年間治療しようって言わなかったんだよ。


だって、明子も由貴も千里も私より一年も遅く結婚したのに、もうママなんだよ。


「譲、考え直して」


私は、譲以外の相手の子供なんて考えていないの。


だから、譲…。


「ごめん」


ごめんって言葉で、終わらせないでよ。


「譲」


「3ヶ月は、待つから」


バタン…


譲は、部屋から出て行ってしまった。


何で?


私は、譲しかいらないのよ


離婚届には、きっちりと丁寧にサインが書かれていた。


執着心みたいに欲しがっていた由貴の妊娠を知った時、ふざけるなと思った。


ニートみたいな男と結婚して、僅か半年で妊娠した。


不妊治療行って正解だったわ!その笑みが頭にこびりついて離れなかった。


里依紗も早く出来るといいねー。


仲良し四人組だったのに…。


私だけが、のけ者だった。


疎外感だった。


だから、あの日…。


譲は、あの日を怒っているの?


違う、もしかしてあの日を怒ってるの?


ちゃんと言ってよ!


ちゃんと、言葉にしてくれなきゃ私には、わからないじゃない。


譲、お願い…


3ヶ月なんていわないでよ。


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