第20話 狂人エルザ



俺達は再びバルステール牢獄に来ている。


「フルール、囚人名簿なら隅々まで見たが、目ぼしい人材は他には居なかったぞ」


「名簿に載ってない人物が居る筈ですわ、そうですわよね?」


「それは…」


可笑しい。


顔色が変わった。


気のせいか真っ青だ。


「どういう事だ?」


「重罪人の中には『居ない事』にされて収容されている人物が稀に居るのですわ」


マジか?


「そうなのか?」


「ええっ、私は貴族だったので名簿から消されるような事はありませんでしたが、歴史の中には『存在しない』『居なかった』そういう扱いを受ける存在もいますわ…滅多にいませんが、此処にも1人、とんでもない存在が居るはずですわ、まぁ死んでなければですが」


フルールがこう言うのだから多分、とんでもないのだろうな。


「悪いが居るのなら、包み隠さず教えて貰えないか? 俺は此処に仲間を探しに来ているんだ!これは国王にも王女にも許可を得ている事だ」


「解りました…ですが本当に…いや解りました」


そう言って牢番は一枚の名簿を渡してきた。


「いましたね、狂人エルザ、私が搦め手が得意なのに対してエルザは物理で強い、頭が少しおかしいですが、そこはリヒト様ならどうにかなりますわ」


俺は名簿に書いてあるデーターを見た。


凄い…凄いなんてもんじゃない。


殺した数は200を超える。


その多くが騎士や盗賊、冒険者など戦闘職。


貴族迄殺している。


だが何故だ。


何故此処迄の事をして死刑にならない。


「何故、此処迄の事をして死刑にならないんだ」


「いや…それはなぁ」


「それは狂人エルザは、全て名乗りをあげ正々堂々と殺しているからですわね、その後は残酷極まりない扱いですが」


「それなら犯罪にならないんじゃないか?」


「まぁ、恨みは山ほどかっていますから、誰かに嵌められたのですわね! 殺した相手の首を落としてボールの様に蹴っていたり、妻と子供の前で旦那を遊びながら殺したりしていましたから」


「凄いな」


「だからこそ最凶なのですわ」


この話を聞いても仲間にしたい。


そう思うのは、彼女の悲しい過去がこの名簿に書かれているからかも知れない。


◆◆◆


「私に会いに来るなんて随分奇特な方もいたもんね」


これが狂人エルザ?


見た感じは絶世の美女だ。


フルールが幼さが少しある美少女だとしたら、成熟した大人の女性にしか見えない。


年齢は俺達と余り変わらない筈だ。


それなのに八頭身の体で胸がやたら大きい。


体型で言うならセクシー系の女優やプレイガールが近いかも知れない。


黒髪に切れ長の目、話を聞いて居なければ、不幸とは無縁。


殺しとは無縁の様な人間に見える。


「私の名前はフルール、こちらはリヒト様なのですわ」


「へぇ~昔の勇者と同じ名前なんだ、それでなんのよう?」


「ストレートに言う、お前を仲間に誘いに来た」


「へぇ~、そんな危ない女を連れて誘いにねぇ~あんたなにをしたいの? 魔族と戦う? それとも国家転覆でも考えているのかな?」


「まぁ、勇者ではあるから魔族と全く戦わない訳にはいかないが、基本は面白可笑しく生きるだけだな、それ以下でもそれ以上でも無いな」


驚いているな。


「へぇ~本当にそれだけ? それなら仲間になっても良いけどさぁ~私、魔族と戦わないよ…その条件なら構わないわ」


「ちょっと幾らなんでも可笑しいですわ」


「いや、それで良い、但し自分の身位は自分で守れよ」


「本当にそれで良いの?」


「ああっ構わない、それじゃこれからは仲間だな」


「あの、私は怖くないの?」


「俺の横にいるのは黒薔薇だ…似たような者だろう?」


「それなら良いけどさぁ…本当に此処から出してくれるのか?」


「構わない…それじゃ早急に手続きをするから」


「ああっ期待しないでまっているよ」


こうして俺の二人目の仲間が決まった。


これで自分を含んで三人。


打ち止めで良いだろう。


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