第12話 古い奴隷紋



「フルールを仲間にしたいと言われるのですか!」


「危険ですやめた方が良いですよ…」


俺の体は『不壊滅』


何処まで通用するか解らないが、多分壊せない。


聖剣が、さりげなく騎士から聞いた話では絶対に壊れないという話だ。


恐らくは同じ位頑丈だと思う。


本当はあの後、折角だからフルールと食事をしたかったのだが、フルールを外に出すのも、食事を持ち込むのも駄目だった。


確かに、彼女は凄い…本来何一つ持ち込めない牢屋に鎖で繋がれている筈が、鎖を外して何もない牢でガラスのナイフを持っていた。


あの状態で隠し持っていたとは考えられないから、恐らく作ったのだろう。


危ないという判断は可笑しくない。


だが、俺にとってフルールは必要な人間だ。


そして、俺との相性は抜群だ。


「王様にマリアン王女様、ご心配ありがとうございます、ですが彼女は私に必要な存在なのです、そこを押してお願い致します」


「だが、彼女は犯罪者、貴族ゆえに死刑は無いが…死ぬまで幽閉が決まっている存在です」


「それ以外にも彼女は危ない、王女であるこの私ですら、名前を知っている悪人なのです」


結局、長い話し合いの末、王様側が折れてフルールを仲間にする事が出来た。


但し、フルールには奴隷紋を刻むという条件付きでだ。


だが、これが問題だ。


俺がフルールに仲間になる条件として、差し出した対価は『月に1度好きなだけ刺して良い』という対価だ。


もし、奴隷紋によって縛られて、それが出来ないなら約束を破った事になる。


「奴隷紋についてですが…」


「それについては王家ご用達の奴隷商を呼ぶゆえ、そちらと話すと良いです」


「私はお勧めしませんがリヒト様が選ばれたなら仕方ありませんね…意思を尊重させて頂きます」


◆◆◆


凄いな王家の権力。


1時間もしないで奴隷商が来るなんて。


「お話は王より聞いております、リヒト様、なんでも奴隷紋を刻む前にご相談があるとか?」


「制約の少ない奴隷紋とかありませんか?」


もし、無いなら最悪、もう一度交渉する必要がある。


王と相談して駄目ならフルールとな…


「随分と珍しい注文ですな…結論から言えばありますが、ただこれを奴隷紋と言って良いのかどうか…」


通常の奴隷紋の他に、今ではまず、彫る事の無い古い物があるそうだ。


簡単に言うと『どちらかが死ねば、相手も死ぬ』そういう奴隷紋だ。


お互いに『互いに殺す事が出来ない』それだけしか制約はない。


「その奴隷紋なら『攻撃』は出来ますか? 」


「可能ですよ…ただ奴隷に攻撃や抵抗を止めさせるのが奴隷紋の役割…なぜ攻撃を許すのです」


流石に刺ささせる為とは言えないな。


「戦闘訓練をして貰おうと思いまして」


「成程、戦闘訓練をするのであれば通常の奴隷紋では確かに難しいですね…納得です」


◆◆◆


俺は再び牢に行くと、此処迄の話をフルールに話した。


「馬鹿ですわね」


「何処が?」


「そこは普通、私を諦めるか、通常の奴隷紋でと説得する筈ですわ」


「それでは約束を違えた事になるから駄目だ」


「本当に馬鹿ですわね、私は貴方が連れ出さなければ死ぬまで此処で過ごす存在なのですわ…食事や水も粗末な物、1~2年で恐らく死ぬのです、体の良い死刑と同じなのですわ、普通なら、奴隷にならないかと交渉するのが普通なのですわ」


「それじゃ約束を違えた事になるだろう? 俺は仲間になって貰う条件を提示した、そしてフルールはそれを承諾した、もう約束は成立しているんだ、後から反故にする事はクズのする事だ…俺はこの先悪い事をするかも知れない…だが仲間との約束は破らないし仲間には優しくありたい、それが俺の矜持だ…まぁ叔母さんの受け売りだけどね」


フルールは少し笑った気がした。


「その叔母さん、少し私に似てますわね『薔薇』にしたい位ですわ…随分と高く評価されたものですわ『死ぬ時が一緒』なんて私みたいな女にとってこれ以上ない話ですわね、良いですわ『黒薔薇』として貴方の傍に居ますわ、私が死ぬまで『毒殺』『暗殺』すべての死から守る事を約束しましょう『黒薔薇』として誓いますわ」


そう言うと、フルールは深く頭を下げた。


返事をするべきだ。


「なら俺も未熟だけど、フルールをすべての死から守る事を約束するよ」


フルールの目が何故か驚いた顔に変わった。


「私を守るなんて…そんな事を言った人は初めてですわね」


そう言うなり、いきなりフルールに抱き着かれた。


裸の美少女に抱き着かれた俺は…久々に顔が赤くなった様な気がした。


流石に枯れきっては無かったようだ。


◆◆◆


フルールとの話が終わったので、奴隷商に来てもらい、古いタイプの奴隷紋を刻んで貰うことにした。


「それでは少し血を下さい」


そう言ってナイフを差し出して来たので指を切り、奴隷商が差し出した皿に血を落とした。


そこに奴隷商が特殊なインキを垂らして、筆の様な物につけフルールの腰辺りに魔方陣の様な物を書いていった。


瞬間、俺は体が熱くなった気がした。


見た感じフルールも同じようだ。


「これで、この女性は貴方の物でございます…それでは失礼します」


「ありがとうございます」


色々説明して貰ったから、本来ならチップ位はあげるべきなのだろう。


だが、俺はまだ、この世界のお金を持っていない。


仕方なく俺は自分の財布から…500円を出した。


情けない話、死ぬつもりだからお金を降ろしてなかった。


「これ、気持ちだけ…お世話になりました」


「異世界のお金ですね…珍しいですね、折角だから受け取りましょう」


ホクホク顔で奴隷商は帰っていった。


◆◆◆


あらかじめ用意していた服を着て貰い…フルールを連れ帰った。


牢獄の監視者が凄い顔で見ていた気がしたが…気にしない。


流石に遅くなっていたので門は閉められていたが、門の前に兵士が立っていて横の小さな門を開けてくれた。


お礼を言い…自室に戻るとあらかじめ頼んでいた食事がテーブルに並んでいた。


牢屋の中じゃ碌な物を食べていないだろうからとあらかじめ用意して貰った。


「随分と手際が宜しいのですわね」


「流石に、お腹がすいていたでしょう」


「確かにそうですわね…それじゃ頂きますわ」


魔道具の明かりで美味しそうに食事をするフルールが俺には凄く優雅に見えた。





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