第8話 女神の作りし者②




「イシュタス、此処にあった『麗しの勇者』何処にやったの?」


今日は久々に美の女神アフロディアが私の所に訪ねてきました。


一神教で人族限定ですが、一つの世界の支配者である私は一柱で居る事が多いのです。


だから、偶に外界から遊びに来てくれる他の神と話すのが、凄く嬉しく有難いのです。


この辺りは女神とて人間と変わりません。


「それなら、肉体を持たずに此処に来た人が居たから、あげたのよ」


彼は凄く悲惨でしたから…


私は事のあらましをアフロディアに話しました。


「そう、残念ね、あの容姿は私も好きだったのに、しかし良く創造神から無理言って頂いた『本物のリヒトの一部』迄使った物を手放したわね…あれは貴方のお気に入りだったのでしょう、創造神に憧れたけど『魂を宿らせられない』貴方にとって最初で最後の作品と言ってましたよね!」


「ええっ、だけど魂が宿ってこその器だもの、此処で悠久の時、飾られている位なら…魂が宿り、生きて貰った方が良いわ」


「確かに、そうね…それで彼には、どんなジョブやスキルを与えたの? あの『リヒトから作られた存在』がどんな人生を送るか私も、気になるわ」


あれ、私、魂を入れたけど…何も与えた記憶はないわ。


「あのさぁ…アフロディア、何も与えていないとどうなるのかな?」



「そりゃ、何も与えて無いなら『無能』になるに決まっているじゃない? まさか忘れたとか…幾らイシュタスでもそんな事無いわよね」


これは不味いんじゃないかな?


私…祝福をあげた記憶が無い…まさか私『無能』の状態で送ってしまったの。


本当に不味いわ。


「私、やっちゃった…」


「あらあら、大変ね…あの子、きっと苦労するわ…あのイシュタス、まさかとは思うけど、その前にパーソナルデーターのリセットはしたわよね」


「それって何?」


「まさか…知らないの…他の神から貰ったら、まずは自分の物という形をとって所有権を切り替える必要があるわ、創造神様からは確か創造の参考にとして貴方は貰ったから、所有権は移して無いんじゃないのかな?それに貴方の所有権を外して無いなら二重の所有権として…それも残っているかも知れないよ」


「それはどういう事になるの…」


「解んないわ…だけど面白そうね」


面白いわけない…


きっと大変な事になりそうな気がする。


「そう…仕方ないわ」


「あら、慌てないの? 面白くないわね」


「もう…私は知らないわ、ジョブやスキルを与えたら、その後は関与しない、それが決まりだもの…知らないわよ」


「きっと、問題になるわよ」


「今考えても仕方ないわ…うん仕方ない」


「まぁ、私は見なかった、聞かなかった事にするわ、イシュタス…ガンバ」


「ううっ…ありがとう」


もうどうする事も出来ないんだから…仕方ない、仕方ないわ。


◆◆◆


俺は見た…


リヒト

LV 48

HP 5760

MP 4320

種族 神人(かみひと)※神が所有する人(不壊滅)

ジョブ 女神イシュタスの勇者(麗しの勇者)

スキル:全知(言語を含みすべての事柄を瞬時理解する) 全(聖、闇、炎、風、水、土)魔法レベル32 武術全般(剣、槍、盾、弓、徒手)レベル46  魅了 ※すべての者に愛される

功績:魔王と戦い負けたが、全人類を救う為に交渉し自身の死と引き替えに魔族と人類の戦争を停戦させた。


なんだ、これは…もしかして、いやもしかしなくても、俺は『麗しの勇者 リヒト』そのままで送り出されたのか?


これ…どうなの?


不味く無いのか…


◆◆◆


暫くすると、マリアン王女に神官…そしてどう見ても王様にしか見えない人物が息せききらして走ってきた。


不味いな。


「まさか…貴方が、あの勇者リヒト様だったなんて知りませんでした」


「まさか、伝説の存在に会えるなんて儂は、儂は幸せ者だ」


「教会に連絡しましたら、1週間以内に教皇様も駆けつけてくるそうです…その間も不自由が無い様に取り計らいます、何でもおっしゃって下さい」



「さっきマリアン王女様に言った通り、記憶がありません…色々教えて下さい」


「解りました、私が知る限りの事をお教えしましょう」


『麗しの勇者 リヒト』は伝説の勇者で、凄く美しかった事と悲劇の勇者として有名でこの世界で知らない者は居ないそうだ。


魔王と戦い負けはしたが、その美しさと戦いぶりに関心した魔王は、そのまま命を助けた…だがリヒトは『私の命はいらないから、少しで良い、歩みよりと戦いを止めて欲しい』と魔王に伝え、その場で自決した…それに感銘を受けた魔王は180年間の停戦を人間側に申し入れたという話だ。


教会によってはリヒトを祭っている教会すらもあるのだとか…


「それで俺はどうすれば良いのでしょうか?」


「世界の為に犠牲になった貴方に、この世界をもう一度救って下さい、なんてお願いをするほど恥知らずな真似は出来ません、教会としては『自由に生きて頂こう』という方針で考えています…魔王と戦い、負けたとは言え世界を救ったのですから、その褒賞も貴方にこの世界は払っていません…詳しくは教皇様が来てからですが、大概のの願いは叶えて貰えると思います…」


「儂の方はこれから宰相や貴族と話し合う予定ですが…儂個人は自由で良いと思っています…但し、もし魔族と戦う道を選ばれるなら『魔王』とは戦わないで下さい」


可笑しいな、勇者であるなら『戦え』と言われるかと思ったのにな。


「何故でしょうか?」


「言いにくいお話なのですが、恐らく今の力がリヒト様のピークです…これからの成長は恐らく見込めません、この世界から選ばれた勇者では魔王に勝てなくなり、異世界人を召喚する事に時代と共に変わっていったのです」


不味いな…この話の流れじゃパラレルワードの話が嘘になる。


「ですが、俺は異世界での記憶もあるのですが…」


自分からふった方が良いだろう。


「それなら、恐らくですが死んだあと異世界に転生したリヒト様が、再びこの世界に転移した…そう考えるのが妥当かも知れません…いずれにしても、過去の功績は貴方の物です…教会としてはもう一度貴方に死んで欲しくはないのです…悪いようにはしません、教皇様が来てから今後の話をしましょう」


「儂も同じだ…リヒト様の意思を尊重しよう」


「私も同じです」


今後どうすれば良いんだ…


まぁ自由に出来るみたいだから良いか…





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