第14話 彩希ねえのことが心配なんです。

7/31(日)気温31度

・北部桜林公園(ほくぶおうりんこうえん)午前9時半

僕は今家から徒歩2分くらいの北部桜林公園で鬼ごっこをしている。誰としてるかって?相手は陸上部で全国大会出場経験のある彩希ねえと昔その彩希ねえと鬼ごっこをしていたという夏帆さん。僕はなんでこんな化け物じみた人と一緒に鬼ごっこをしているのだろうか。今は夏帆さんが鬼で、鬼ごっこは始まったばかりだ。この公園は普通の公園より広いが遊具が少ないため隠れるところは少なく、どこからでも全体が見えてしまうのだ。けど、こんなに公園が広いのだ。いくら僕でもそう簡単には捕まらない。一分経ったら鬼は動き始めていいルールだ。

「よーし、じゃあいくよぉ!」

夏帆さんが動き始めた。まあすぐにここまではこれないから僕は夏帆さんのほうを見ながらゆっくり移動しよう。

「あっ!秋葉君みぃーっけ!」

夏帆さんは僕を見つけるとクラウチングスタートの構えをした。

「そろそろ走り始めたほうがいいかな?」

僕は女子相手に本気を出すのをためらったけどあの彩希ねえと鬼ごっこをしていた仲だ。油断はできない。けど夏帆さんと僕は結構距離があるから最初は6割くらいで走り始めた。

「あれ、秋葉さんどこ行った?」

僕はもう少し距離を広げるために少しだけ夏帆さんから目を離して走っていたが、次に振り返るともうそこには夏帆さんの姿はなかった。

「あれ、どこだ?」

僕は頭だけ後ろを向きながら走っていた。すると、どんっと誰かに当たってしまった。

「すみません、よそ見してて!」

「秋葉君タッチっ!」

「・・・え?」

僕はぶつかった人の顔を見た。

「次は秋葉君が鬼ね?」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

僕は顔を確認すると、思わず叫んでしまった。

「うわっ、どうしたんだよ?私がお化けにでも見えた?」

夏帆さんは笑いながら僕に言う。

「い、いつの間に、、、」

「あーそれなら~、秋葉君がさ少しだけ私から目離して走り出したでしょ?」

「、はい」

「その時になるべく音を立てないようにダッシュで回り込んだんだよ」

「だとしても速すぎますよ」

「そうかなあ?個人的には少し遅くなったんだけどな」

ここで僕は確信した。夏帆さん、人間じゃないな。

「夏帆さんって、ほんとに人ですか?」

そういうと夏帆さんは急に真顔になる。

「さあ、どうかな?」

夏帆の口は笑っていたが、目はまるで本物の化け物に憑りつかれたような目をしていた。

「か、夏帆さん、、、?」

そういうと夏帆さんはいつもの表情に戻った。

「冗談冗談、人だよ!失礼だなあ秋葉君はっ!」

「すみません」

「じゃあ、次は秋葉君が鬼ってことで!それじゃ!」

夏帆は笑って言うとすぐに走り出した。夏帆は走り出したかと思うともうそこに姿はなかった。

「だから速すぎるんだって、、、」

「ん?夏帆さん?いや、よく見えないな。一回追うのはやめよう」

僕は夏帆さんは一回あきらめて彩希ねえを探すことにした。

???「あれが弟君、、、か」

???「ふふふっ、君のお姉さん、少しの間貸してもらうよ、、、」

・北部桜林公園午前10時

「彩希ねえ、どこにいるのかなあ?」

さっきから彩希ねえの姿が見えない。こんなに遊具が少なければ姿くらいは見えると思うんだけどなあ。

「おーい、彩希ねえ!」

まさか彩希ねえに何かあった?いや、そんなはずはない!一回鬼ごっこを中断して夏帆さんと探そう。

「夏帆さーん!一回鬼ごっこ中断しましょう、来てください!」

そういうと夏帆さんは走っていたのをやめてこちらに向かってきた。

「どうしたの~、体調悪い?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど」

「ん?」

「彩希ねえがいないんです!」

「えっ!?」

夏帆さんも彩希ねえがいなくなったことを知らなかったようだ。

「彩希ー!出てきてー!」

「彩希ねえー!」

僕は夏帆さんとすぐに彩希ねえを探し始めた。

・北部桜林公園お昼12時

「はあはあっ、秋葉君、いた?」

「ううん、どこにもいないや」 

「どうしちゃったんだろう」

「近くに交番があるからさらわれたりしないと思うし」

「彩希ねえ大丈夫かなあ」

「一度家に戻ってみる?」

「うん、ママに一回言ってみよう」

「そうだね、もしかしたら一人で家に戻ってるかもしれない」

僕は彩希ねえが家に帰っていることを願って一度、家に戻った。

ガチャ

「あら?秋葉に夏帆ちゃん、彩希はどうしたの?」

「鬼ごっこしていたら急にいなくなっちゃって」

「えっ!?」

ママは表情を曇らせる。

「「ごめんなさい!」」

「あなたたちのせいじゃないわ、とりあえずママは彩希がもし家に帰ってきたときに誰かいないとだから家にいるわ」

「うん」

「じゃあ、私たちもう一回探してきます!」

「わかったわ、けど気をつけてね」

「はーい」

「じゃあ、行ってきます」

ガチャン

・北部桜林公園午後3時

「秋葉君、いた?」

「やっぱりどこにもいないよ」

「そっかあ、ねえ秋葉君?」

「はい?」

「この辺で彩希がよく行く場所とかある?」

「よく行く場所?」

「そう、それとか、用事が入って急に行かないといけなくなったみたいな」

この辺で彩希ねえが行く場所と言えばバイト先の焼き肉屋くらいだ。けど今日はバイト入ってないって言ってたし、、、。けど一応行ってみようかな。

「夏帆さん」

「ん?なんかわかった?」

「確証はないんですけど、この近くに焼き肉屋があるんですよ」

「焼き肉屋?それがどうかしたの?」

「はい、彩希ねえそこの焼き肉屋でバイトしてるんですよ」

「そうなの!?」

「はい、けど今日は休みって言ってたから」

「いや、けど休みならなおさら急に消える理由としてはうなずける」

「一回行ってみよう、何かわかるかもしれない」

「はい!」

僕と夏帆さんはダッシュで彩希ねえのバイト先の焼き肉屋に向かった。

・焼き肉屋姉妹(しまい)午後3時半

チリンチリン

「いらっしゃいませー、何名様ですか?」

店に入ると夏帆さんと同じくらいの背丈の女性が笑顔で聞いてきた。

「あ、あの僕、、、」

僕は恥ずかしくて言葉が詰まっていた。

「あっ、秋葉君?」

「え、なんで僕の名前を」

「秋葉君のお姉さんに聞いたのよ」

「けど、会ったことないですよね?」

「まあ秋葉君からしたら会ってないね」

「それって、、」

「あー、今日家の近くの公園で遊んでたでしょ」

「は、はいっ!」

「なんでそのことを知ってるんですか」

チリンチリン

夏帆も少し遅れて店に入ってきた。

「きゃーっ!何この超絶美形!」

店員さんは夏帆さんを見るなり目をハートにして、夏帆さんを見ていた。

「あ、あのぉここで働いてる彩希ってこの友人なんですけど、彩希って今いますかね?」

「彩希ちゃーん、弟君とお友達が来たわよ!」

夏帆がそう聞くと店員のお姉さんはくるりと背を向けキッチンのほうに向かって呼んだ。すると、キッチンから人が出てくる。

「あれ、あんたたちどうしたのよ?夜ご飯でも食べに来たの?」

「彩希ねえ!」

僕は彩希ねえにやっと会えてうれしさのあまり店の中で抱きついてしまった。

「急に抱きついちゃってどうしたのよ!?」

「うぅっ、、、ぐすんっ、」

「あんた泣いてるの?」

「泣いてなんか、ない、」

「もう、なにがあったのよ?」

「だってぇ、彩希ねえがぁ、ぐすんっ、、急にいなくなるから、、」

「え?バイトに行くことはあんたの携帯に連絡入れといたと思うんだけど」

「、、、え?」

そういうと彩希ねえは後ろのポケットから携帯を取り出して急にバイト入ることになったから家に帰ってていいよと打たれているメールを僕に見せてきた。

「あんた携帯見てないの?」

「あっ、自分の部屋にある」

「はあ、どうりで気づかないわけだ」

夏帆は納得するとため息をついた。

「っていうか、秋」

「ん?」

「あんた抱きつかれるのはいいんだけどぉ」

「うん」

「あんたどさくさに紛れて何処触ってんのよ!?」

僕は彩希ねえの胸に顔を埋めていた。ちなみに最初に抱きついたときは抱きしめる感じで手は後ろでクロスさせていたが、泣き止んでくると僕は次第に手を彩希ねえの両胸に移動させガシッと掴み、バイトの制服の上から揉んでいた。

「んんっ」

僕は涙を彩希ねえの制服で拭うと、抱きつくのをやめた。

「ごめん、つい」

「つい、じゃないわよ」

「あららぁ?可愛いお客さんね」

キッチンからもう一人女の店員さんが出てきた。

「あっ、店長これは、、、」

「え、このお姉さんが店長!?」

「そうよ」

「わかってるわよ、弟さんでしょ?」

「はい、、」

「弟さんさっきはごめんなさいねえ、勝手にあなたのお姉さん連れ出しちゃって」

「だ、大丈夫で、す」

「秋、顔真っ赤よ?」

「う、うるさいっ」

「あらあら、誰にお熱なのかしら?」

「店長ですよ、絶対に」

「あら?弟君は私にお熱なのかしら?」

僕は余計に顔が熱くなる。

「あらあら、こんな若い子に好かれるなんて嬉しいわねえ」

「え、店長何歳なんすか?」

店員が聞く。

「秘密よ♡」

僕は店長さんの顔をもう見れない、次見たら何かが出そうだ。僕は出す前に夏帆さんと帰ることにした。

「か、夏帆さん、家に帰ってママにも言おう!」

「あっ、そうだね」

「ママにも言うって、あんたママに何を言っ、」

「じゃあ彩希ねえ僕と夏帆さんは先に家に帰ってるから、それじゃ!」

そういうと僕と夏帆さんはすぐに店を出てダッシュで家に向かった。

ガチャ

「ママ、彩希ねえバイトしてたみたい!」

「そう、よかったわ」

「秋葉と夏帆ちゃん二人とも汗だくじゃない、お風呂できてるから入ってきたらどうかしら?」

「うん!」

僕はもう焼き肉屋には行けそうにないです。




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