生きるための処世術

 生きることが下手な私は、何事も鏡写しで生きてきた。まるで鏡に写したように相手と同じ反応をすることでその場に合わせる方法だ。

 鏡写しが通用しない場面も当然あったが、人生を共に生きようと誓ったパートナーには、鏡写しが効果覿面だった。あらゆる会話や物事が滞りなく進んでいったのだ。

 ある夜、パートナーは満面の笑みを浮かべて、寝室に入ってくる。私もそれに合わせて笑みを浮かべた。


「ねえ! やっとあなたとの離婚が成立したの!」

「わあ! よかったね! 君はそれで楽になるかい?!」

「うん! あなたが私の意志を尊重してくれたおかげ! ありがとう!」


 何を言っているかわからないけれど、パートナーが幸せならそれでいいか。と、私は良い気持ちで眠りについた。

 翌日仕事から帰ってくると、パートナーはいなかった。電話をかけてみると話の要領が掴めずよくわからないのだが、実家に帰っているらしい。

 いつ帰ってくるのかな。と、カレンダーの今日の日付に丸をつけた。

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