その12 弱点(ウィーク・ポイント) PART2

 数日後、俺は赤坂見附にいた。

 その日は土曜日、店の中はほぼ満席だった。

 何しろここは最近若い女に人気のステーキハウス。

 ということは即ち、値段もそれなりに高い。

 え、何だって?

"お前みたいな私立探偵が来るような店じゃないだろう?”だと?

 仕方ないだろう。

 俺の情報源殿が、どうしてもここじゃなきゃ嫌だというもんでな。

 腕時計を見る。

 約束の時間から10分は過ぎていた。

 俺はわざわざ個室ダイニングを頼み、

”相手が来るまでオーダーは待ってくれ”とボーイに頼み、さっきから無料の水を数杯お代わりしていた。


『お待たせ』

 ブラックのキャミソールにグレーのスーツ。

 タイトスカートには見事なスリットが入っていて、太腿まで俺の目に突き刺さってくる。

 スリーサイズは・・・・いや、それは良しとこう。

 ここでは関係ないからな。

 まあ、マリリン・モンローと並べても見劣りはしないとだけ言っておこう。

 

 彼女はウェイターがそうするより先に椅子を引いて腰を下ろし、ハンドバッグから遠慮なく銀のシガレットケースを出すと、シガリロを摘まみ、ジッポで火を点けた。

『待った?』

『いや』

 まったく、これが警視庁の警視殿だなんて誰が信じるだろう。

 そう、彼女は警視庁外事課特殊捜査班主任、通称”切れ者マリー”こと、五十嵐真理警視殿だ。

 真理は空中に遠慮なく煙の輪を作ると、ウェイターが差し出したメニューを広げ、手早くオーダーを済ませた。

しかも一番高いコースだ。


仕方ない。

俺は一ランク下のコースを頼む。

『ええ、あなたそれで身が持つの?』

 彼女は遠慮なく運ばれてくるスープ、サラダ、そして300グラムはあろうかというサーロインステーキを遠慮会釈なくこなして行く。

 全く人のゼニだと思って・・・・俺は舌打ちをしてから、ハンバーグステーキをかぶりつく。

 仕方がない。

”今は忙しいのよ”という彼女を拝み倒して来て貰ったんだからな。

『ところで、約束のもん、持ってきてくれただろうな?』俺の言葉に彼女はフォークとナイフを置き、ナプキンで口を拭ってから、傍らのハンドバッグから、銀色をしたUSBメモリーを取り出してこっちに差し出す。

『さっさとしまって頂戴ね。これだって持ち出し不可の品物なのよ。ステーキのコースで売るなんて、私も安物の悪徳警官の仲間入りよ。これまでのキャリアがパアだわ』

 ぼやきながらも、彼女はまた目の前のステーキに取り掛かる。


 大くらいの女警視殿だ。

 俺はそいつを受取り、直ぐに内ポケットにしまう。

 それから手早くハンバーグを片付け、

『有難う。』

 それだけ言い残すと、伝票を持って席を立った。

『まったく、日頃から”警官わたしたちの手は借りない”なんて手強がってるんなら、このくらい自分でやればいいのに』

『苦手なものは苦手なのさ。』

『元自衛官だってのに?』

 俺はそれには答えなかった。

 

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