森の王、光の勇者、ただの傭兵 1
「俺はまだまだやれるぞ!」
アルマの咆哮に、鱗の
二人の行動に驚いたのか、飼育士の
背後に飼育士がいるとわかっているのもそうだが、今回は本当の力を引き出されている
その場で何回もぐるぐると回転した後のような酔いの感覚が胃袋に酷い不快感をもたらしていたが、視界は意外とはっきりとしている。しかしこの棍棒が自らに迫っていたと気付いたのは、明らかに視覚を元にした判断ではなく、何か背中の右側をぞわぞわと撫でるような感覚を覚えたからであった。だからといって、その感覚が不確かな何かが迫っているという感覚ではなく、飼育士の
鎌鼬の刃に魔力を込め、飼育士の棍棒を粉々に砕け散らせたアルマは、そのままその鎌鼬の刃を飼育士の心臓目掛け放ち、華麗に飼育士の心臓を貫いてみせた。貫く手と書いて貫手。まさにそれを成功させたアルマの腕は、軽々と飼育士の胸部から引き抜かれ、飼育士の胴体からどぱっと血を噴出させる。紫色の血が絶え間なく流れ出ているのを横目に、アルマは鱗の
戦場の風と、土と、木と、血が体に馴染んでいくのを感じる。平和を謳歌し過ぎていたアルマの身体に戦いの記憶が取り戻されていく。それが身体をある種、支配の様に包んでいくのと同時に、
傭兵時代のアルマは
鎌鼬の刃と黒鋼のトレンチナイフの二振りの刃によって、撃ち出される無数の斬撃は、その異様な速度によって身体を回転させながら、最高効率で斬撃を繰り出しているからであり、その姿はまさに竜巻。
鱗の
流石にもう一度強力な一撃を貰うとまずいと思ったアルマは、それを軽々と躱し、一旦後方へ退いた。しかし鱗の
しかしその風刃はだんだんと軌道を鱗の
人間用の魔法は扱えないにしても、
鎌鼬の刃と短剣ではなく、魔力で形成された鋭利な刃であれば、鱗の
次は風刃ではなく、ただこの鎌鼬の刃を強化するための魔力を左腕に集め、意識的に鎌鼬の刃を鋭く、固く、細く変化させ、竜巻が消え去った瞬間、鱗の
そしてその死体を地面に叩き落とすと、周囲の
村の奥でサリナとイギルと攻防を繰り広げていた
言葉通りの窮地を脱した三人は消えかけた結界の奥にいる三人に声をかけた。
「セラちゃん……助けに来たよ」
サリナがそう声をかけると、弱々しい結界は静かに消えていき、セラと呼ばれた少女は、結界を維持するために地面へついていた手を放し、そのまま倒れそうになる。それを咄嗟に受け止めたのはアルマであった。
「魔力欠乏症だな」
長く美しい金髪に碧い瞳を持った彼女は美しい少女であるのだろう。しかし体内魔力の減少によって、その目の下にはその碧い瞳よりも青い痛々しい隈が出来ており、目も虚ろだった。
すぐさまアルマは腰につけていたポーチから小瓶を取り出し、それをセラの口に突っ込む。魔力ポーションと呼ばれるそれは一時的ではあるが、体内魔力を補填することの出来る薬であり、魔力欠乏症の特効薬として知られていた。
驚き、むせ返るセラに対し、「魔力欠乏症が治るから我慢して飲め」とその手を緩めることはない。
イギルは怯え震えているもう一人の少女に駆け寄り、その肩を持ち、背中を優しくさすった。イギルがあそこまで救援にこだわったのはそういうことかと、察したアルマは、静かに笑いながらも水を差すような野暮な真似はしない。
「終わったよ。大丈夫だ、ナディア。俺たちが助けに来た。帰ろう」
先ほどとは考えもつかないほどに優しい声音で話すイギルに対し、ナディアと呼ばれた少女の震えは未だ止まらない。無理もないだろう。初めて外に出て行った訓練で、為す術もなく無数の
これをトラウマとして抱えていくのか、教訓として次に生かすのは彼女の心の強さ次第だ。
「ロード君を……助けなきゃ」
まだ魔力欠乏症で、倦怠感が多く残っているであろう身体を引き摺りながら、ロードの元に向かおうとするセラをアルマは制止させる。
「その状態でこれ以上の魔法を使えば、命にかかわるから駄目だ。そこに倒れている奴が重傷ならすぐにキャンプに運ぶ」
「違う――」
「――違う」
セラの次に、サリナが同じ言葉を呟いた。
「何?」
アルマは倒れている少年――ロードの元へセラを支えながら歩いて行った。そこには呆然と立ち尽くし、ロードのことを見つめているサリナがいる。
「何が違うんだ」
「傷……」
「傷?」
「うん、鋭利な三本の裂傷」
重傷だった。だが傷は治っていないものの血が止まっているのを見るに、応急処置は
その事実に気付いた瞬間、アルマの
【ギャォォォオオオオンッ!】
耳を劈く咆哮と共にその姿を現したのは、離れ森深層に棲む、離れ森最上位魔物。
――離れ森の王、
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