第13話 唯一の選択肢

「彩音、今回のシフト、今日が最後だよね?」

「そう、やっと終わるって感じ」

「その後、花束おぢさんどう?」

「それがさ、来てくれなくなっちゃった。って言ってもまだ10日間位だけなんだけどね。前は、週二回位で来てくれてたから、急にどうしたのかなって」

「ごめん、それきっと私のせいだわ」


のぞみは、先日の出来事を彩音に話して、決して悪気は無かった事、なぜか言い出せないでいた事を詫びた。


「そんなことが有ったんだ。でも、感謝してたって、言ってくれたんでしょ」

「おぢさん、きっとそこじゃなくて、歳の差を指摘した事が響いたんだと思うわ。でも、そんな事、痛いほど分ってるって言ってたし、まさかねぇ」

「そう、そうだったんだ。それでも来てくれてたから、そんなに気にしてないのかと思ってたの。 あ〜、また逢いたいな。来てくれるよね、きっと」

「彩音が大事だって思うなら、きっと来るわよ。また、花束か何か持ってね」


のぞみの言ってることは、正論である。彩音を大事だって思っているなら、誰に何て言われようと、逢いに行くのが大事にするって事なのだ。この業界の掟は、逢いに行くことが唯一の選択肢なのだから。


シフト最終日も終わりを迎えようとしていた最終の枠に、塩谷が滑り込んで来た。やはり、手には花束を持っていた。


「田中さん、来てくれたんですね。私、ずっと待ってたの。」

「ごめんね、中々来れなくて。実はさぁ、」

「さえの事?悪気は無かったの、ごめんなさいって謝ってたわ」

「そうじゃないんだ。さえさんに言われたことは正論だから。でも、それは最初から分かって居たことだし。それでね、なんか気持ちうまく伝えれないなって思って、手紙書いて来た。それと、初心に帰ってこれ、花束受け取って下さい。手紙は無理に読んでくれなくて良いんだよ、この時代に手紙なんてね」

「嬉しいです、手紙。ここで、開けて読んでいい?」

「読んでくれるなら、どこでも。光栄だよ!」


彩音は、A4 2枚に綴った塩谷の気持ちを読み始めた。時折、塩谷に目線を送りながら、頷くところも有ったり。そんな、彩音が愛おしくて、ますます恋に落ちていく塩谷で有った。


「ありがとう、この手紙大事にするね」

「なので、いつでも俺はゆうかちゃんの味方だからって、信じてて欲しい。そして、時には弱音吐いて、頼って欲しいんだ。俺にできることは、きっと少ないんだと思うけど、それでもできる最大限を頑張りたい。そう思ってる」

「うん、ありがとう」


今日も、再会を祝うかのように、抱擁を交わした。彼女の鼓動が伝わって来るような気がするほど、強く熱く。


「あのね、田中さん。私、10日間だったけど、逢えなくなって、やっぱり寂しかった。そんな沢山逢いに来て貰うのはわがままだって分かってるけど、これが正直な気持ち。でも、そんなに無理しなくて良いの。気持ち、十分伝わったから、これからも頑張れる。今、はっきりそう思えた」

「そうか、なら良かった。でも、辛いこととか、寂しくなったらいつでも頼ってね。だけど、そっちからは連絡出来ないから、俺が一生懸命に通うしかないよね。流石に、もう、週二回は厳しいと思うけど、できるだけ頑張るから」


そう、この物語は一方通行でしか成り立たないストーリーなのだから。

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