第11話 葛藤
それからしばらくの間、新しいシフトが出るたびに、塩谷が毎回訪れるようになっていた。そのことが、彼女の出勤するモチベーションになっていたのだった。
そんな日々が過ぎていたある日の出来事である。
「えっ、ゆうかさん、今日お休みなんですか? どうかされたんですか?」
「すいません。体調が悪いと連絡がありまして。」
「そうですか、じゃあ今日は帰ります。お大事にとお伝えください...。 あっ、このキャンセルは、彼女のペナルティになったりするんですか?」
「そんなことはないんですが...」
「あっ、なるんですね。じゃあ、このままお願いします。どなたでも構いませんから」
「わっ分かりました、ではさえさんになります。お店で、一番人気の娘です。如何ですか?」
「はい、大丈夫です。どなたでも」
ペナルティーなんて絶対あっちゃいけないと言う一心で、そのまま残った。
だが、直ぐに事情話して帰るつもりだった。
「さえって言います。よろしくお願いしまーす!」
「田中って言います。あの〜、よろしくお願いします。」
「あー、あなたが花束おぢさん」
「えっ?」
「あっ、いや。何でも」
「あの〜、本当に申し訳無いんですけど、実は他の方を予約していたんです。その方が今日お休みだったので、お店の方にさえさんをご指名いただいたのですが...」
「あー、バーターってことね。別に構わないですよ」
「本当に失礼なこととは思うんだけど、そう言うことなので、何て言うかその」
「えっ、どう言うこと? バーター構わないんだって」
「このまま、ずっとここで話も続かないだろうし、俺と居てもつまんないだろうから」
「することして、帰ったらいいだけのことじゃん??」
「それは、ちょっと出来ないって言うか、したく無いっていうか。本当にごめんなさい。さえさんが、どうこうって事では無いんですよ。お綺麗だし、素敵な方だと思うし」
「あー、ゆうかとじゃなきゃ、駄目なんだ。」
「えっ!!!」
なんで、ゆうかちゃん目当てだって知ってんだと、強烈に恥ずかしくなった。きっと、顔も真っ赤なんじゃ無いかと思えば思うほど、やばくなっていった。
「田中さん、なんか顔真っ赤ですよ!大丈夫?」
「あの〜、何で私がゆうかさんを予約していたの、知ってたんですか?」
「えっ、自分で言ってましたよ。うん、言ってた、言ってた。 そんなことより田中さん、一つ聞いていい? ゆうかの事、どう思ってんの?」
「なっ何ですか、唐突に! さえさん、ゆうかさんのお友達なんですか?」
「そうよ、親友!」
「そうだったんだ。ゆうかさん、体調どうしたの、大丈夫かな? それと、俺の事、何か言ってた? しつこいとか、うざいとか、気持ち悪いとか言ってません?」
「ゆうかは女の子の日だから、大丈夫よ。それより、田中さん。先月からずっと何度も来てるんでしょ! しかも、風俗来てお話だけって、キャバクラじゃ無いんだから。感謝はしてたけどね。でも、それってどうなのかなって思うわ。そもそも恋愛対象には成らない訳だし...」
「わっ、分かったよ。って言うか、分かってる。そんな事、痛いほど分かってるんだ。だけど...」
「だけど?」
「いや、いいんだ。申し訳ないけど、俺、もう帰るね。今日はお話ししてくれて、ありがとう。ゆうかさんにも、お大事にと伝えて欲しいです。」
そう言って、塩谷は店を出た。
ゆうかちゃんの友達なのに、さえさんには本当に申し訳ないことしたなあとか、やっぱ歳の差は一生埋まるもんじゃ無いから、あんましつこく行くのは嫌われるんだろうなとか、ネガティブ思考を抑え切れず、今日も直ぐには家路につけなくて、街をふらついていた。
「今度のシフトは4日後からだけど、女の子の日だからしばらく休みかな? どうしよう、今度は行くのよそうかなぁ」
そんな事を呟きながら。
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