第16話 大将戦(2)

「小手えぇ──!!!」


 技の速度を上げる。攻撃は最大の防御だ。防がれても構わない。打ち込め、打ち込め、打ち込め──!

 私の猛攻に対戦相手の大将、梨奈にも焦りが見え始める。竹刀で防ぎ切れなくなってきたのか、打ち込んだ技が竹刀を乗り越え、相手の防具にかすり始める。本物の剣ならまだ致命傷には至らない。


 一撃必殺を……打ち込む!


 相手の突進を避け、打ち出した胴が芯に入った感触を得る。そのまま走り抜け、凛として振り返る。残心。

「一本!」という主審の声とともに赤旗があがり、私の得点となったようだ。肩で息をする程に疲労感が広がるが、達成感、そして心地良さもあった。

 所定の始まりの位置に戻るときに梨奈とすれ違う。私は「早く終わらせよう」と一言伝え、再び竹刀を持ち直した。


「はじめ──っ!」


 三回目の切り合いが始まる。有効打突は互いに一本ずつ。このまま終わると大将戦は引き分けでも、副将戦の負けがあるので、全試合で見れば負けだ。勝利条件はただ一つ。私がもう一本有効打突を取り、大将戦に勝利、そして総有効打突数で相手を負かすことだ。

 最後の戦いは静かだった。互いに竹刀の鋒を交わらせたまま相手の出方を窺う。「やぁぁぁ」と相手を威嚇しながら距離感を崩さずに視線と視線をぶつけ合う。

 先に動いたのは梨奈だ。迷いのない目で突撃し、大きく竹刀を振りかぶる。こんなに速い突撃は避けようがないように思えた。だが、だからこそ、私の目には視えていた。

 相手の竹刀が振り下ろされる直前、一歩下がり間合いを取る。私が動かなければ面の中心を捉えていたであろう竹刀の鋒が面の縁に当たると、私は最後の力を振り絞り梨奈に向かって突撃しにいった。竹刀が思った位置に当たらず重心を崩した体勢に思いっきり体をぶつけることで、完全に梨奈の体勢を崩し試合の主導権を得た。


「いやああああ! 面ええええん!!!!」


 梨奈の背中側に回り、後ろに下がりながら引き面を放つ。気持ちのいい「バシンッ」という音を立てながら私は大きく後ろに下がり、体操選手が鉄棒から着地したときのようにピタッと地に足を着けた。打ち込んで振り上げた竹刀をゆっくりと振り下ろし、審判の旗の動きを見つめる。これ以上動ける体力は残っていない。頼む、旗をあげて──。

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