そして俺は

彼女には俺を揺さぶる何かがある。@白井瑛太

 新学年になってからのことだ。


 クラスに転校生がやってきた。



『皆さん初めまして。藍沢望空です。仲良くしてくれたら嬉しいです。よろしくね』



 その転校生はホワホワとしてておっとりしてるのに、実際はノリが良く、二週間もすればクラスに自然と馴染んでいた。


 クラスの女子達とはすぐに打ち解けていて、まるで長年からの旧友だったかのように接していた。


 男子達からもよく質問というか相談を受けていた。それは彼女と話すといつの間にか相談になってしまうことが多かったから。


 相談を受けた男子達は軒並み彼女のファンになっていった。


 彼女はまるで広い大空のように広く包み込んでくれるような包容力があった。さくらには劣るけど、美少女なのに飾らない愛嬌のある可愛い子だった。


 でも時折、まるで急なにわか雨かのように怪しく映る瞬間があって、それが俺の心を激しく揺さぶってきた。


 明確に何が、とは明言出来ないがこれは直感だった。


 それは昔のさくらにも感じたことだった。





 新学年になると、さくらとは離れ離れになっていた。


 隣のクラスになってしまったのだ。


 会いに行こうとするも、沙織と夕香に止められた。


 彼女達によれば、今話しかけたりするとヤバいと言っていた。きっと怪我だけじゃ済まないと。そっとしておこうと。


 はは。ありえない。


 花咲さくらは優しい子だ。


 そんなことをするわけないじゃないか。


 きっと沙織達の嫉妬で、俺を近づけたくないんだろう。


 それにしても忌々しい柿本英治と同じクラスなのはどういうことなんだ。意味がわからない。あんな根暗な浮気野郎なんて死ねばいいのに。昨日も校門で真っ黒なセーラー服の短髪黒髪美人を侍らせていたんだからな。


 もっとも、その女の表情は死人のようだったが。


 きっと脅しているに違いない。


 もしくは飽きて捨てたのだろう。


 殺意が沸くが、転校生が愛らしいから許す。


 そんなことよりさくらだ。とりあえず沙織達にはさくらのクラスに行ってもらった。随分と嫌がっていたが、頑張って説得したのだ。


 彼女達は何とか頑張ってみると言っていた。その代わりいつかお願いを聞いて欲しいと言われたが。


 これが駆け引きってやつだろう。


 まあいい。これで柿本を近づかせずに済む。


 だからその間に俺は、藍沢望空と仲良くなることにした。


 彼女には俺を揺さぶる何かがある。


 それを知りたくなったのだ。


 花咲さくらとはまた違った感情が、俺の中に芽生え始めたのを感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る