わかる。@柿本英治

 新学期を迎え、学校に行くと花咲さんが壁に寄りかかり、誰かを待っていた。


 僕が似合うと言っていた長い髪を短く切り揃えていた。


 短いのもなかなか可愛い。


 きっと彼氏くんの趣味なのだろう。


 もうあの雪のベンチと同じで、真っ白な別人だ。僕との関係さえも白紙。


 流石。


 彼女はわかってる。



「おはよう英治くん……」



 だけど壁から背を離し、僕に近づいて声を掛けてきた。


 あんな事があったのに、彼女はすごい。


 そんな勇気は僕にはない。



 そして出来ればもう名前では呼ばないで欲しいけど、そんなことを言う勇気はない。


 無視する勇気さえも。



「花咲さん、おはよう」


「っ、ぇ? ぁ…あの…スマホ…変えたの?」



 僕はクリスマスから大晦日までスマホの電源を切っていた。年が明けてからは解約し、番号を変えた。


 曲がりなりにもカレカノだったから、だいたい言いたいことはわかっていたつもりだったけど、花咲さんの会話の意図が全然読めない。


 ここまで僕は……諦めれたのか。


 いいね。


 それに、もう全て終わったことだ。今から始まるとも言うけど。


 これも彼女の幸せと僕のためだ。


 挨拶もそこそこに足早に立ち去ることにする。


 なぜなら彼女の友達が後ろから猛スピードで駆けてきたからだ。



「うん。もう必要ないしね。じゃあね」


「え、あ、あっ…待っ、うわっ!? 沙織?」



「聞いたよさくら! 柿本浮気してたんでしょ! 最悪だよね! 別れて正解だよ!」



 後ろから城戸さんの声が聞こえてきた。


 大晦日に仕込んだ僕のアイデアが形になり、芽吹く。


 これでクラスでは僕と花咲さんは近づけない。物理的にも、雰囲気的にも。


 こうやって外堀を埋めておかないと、僕はまたうっかり彼女に惚れてしまう。


 大好きの芽が生まれてしまう。


 花咲さくらに夢中になってしまう。


 それが怖いんだ。



「……え? 何それ…」



 花咲さんは困惑を口にした。


 わかる。

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