第11話 スキル、技、特技についての考察

ゲームの世界では、プレイヤーに分かりやすいように技やスキル、魔法、特技がレベルアップやステータスアップで身につくようになっている。

そのスキルを身につけるための途中過程は基本的に省かれることが多いが、現実世界では技やスキル、特技を身につけるには、それなりの練習や訓練、鍛錬やその技術を扱うための知識、教養が必要になってくる。

それはオリンピックの体操種目を見ていればわかるだろう。

体操選手に選ばれるには、日々のたゆまぬトレーニングがあり、型の決まった技をやってのけるために、体の使い方や筋力をミリ単位で調整し、数ヶ月間、毎日の大部分をその種目の練習に終始する。そうすることではじめて本番で技を披露できるのだ。


では、ゲーム内ではそのスキルなどは誰がくれるのだろうか。

他ならないゲーム開発者である。

型の決まった技やスキルなどをTPやMPといった定量消費で手軽にいつでもどんな状況であっても、足元が不安定な場所でも、プレイヤーが焦っていたり寝不足であっても、なんの調整もいらずに出せるようにしてくれている。

とても親切な設計であるのがゲーム内のスキル、技、特技、魔法だ。


基本的に、ご都合主義の産物で、手軽さを実装したものだ。

ゲーム内では煩わしい訓練や鍛錬の描写は歓迎されない。

昔の武士のように、坐禅を組んで数時間に及ぶ精神統一や、型の訓練を毎朝毎晩欠かさずして、滝に打たれたり、走り込みをしたり、斬り合いの型合わせをしたりといった。

現実的に必要とされる途中過程を経るのは、プレイ中にプレイヤーがほとんど何もしない、またはプレイヤーに同じ操作を繰り返し強要することになり、ゲームとしての魅力を激減させる。

せいぜい、ムービーや音楽で長い鍛錬や時間が必要だったことを匂わせる演出に使われるくらいだ。

1つの型や技を身につけることですら、普通の人には相当難しい、根気と情熱が必要なことだ。一般人のプレイヤーみんなにそれを会得させることははなから想定していない。

そんなことをしていては、魔王を倒したり世界や大切な人を救うまでに数百年かかってしまう。

そういうゲームを好む人は少ない。


ゲームの登場人物は規格外なことが多い。

普通に考えれば、1人の人間が生涯のうちの数ヶ月程で、複数の流派の異なる技を奥義まで身につけるような、1万人の武士の生涯を全てを詰め込んだような英雄が主人公やその御一行たちだ。

魔王が瞬く間に世界を掌握することに勝るとも劣らない怪物なのだ。むしろ、伸びしろがありすぎる分、魔王よりも恐ろしいまである人達だ。

そのような人物が世界にそう何人もいるとは思えない。

事実、現実世界にはそんなことが出来る人物は一人もいない。

ゲームの主人公のように、系統の異なる複数のスキルや技を易々と複数使いこなすには並大抵ではない。

何しろ人生が何度変わるか分からないくらいの変化だし、何千何万の人の生涯を詰め込んだようなものだ。

その時点で等身大の人間からかけ離れてしまう。

世界の均衡を著しく逸脱する存在なので、その影響力は計り知れないだろう。



ゲームではない世界でスキルや技、特技を身につけることができるとした場合、開発者のいない世界であれば、それらの便利な機能は誰がくれるものなのだろうか?

神様や悪魔のような超越的な存在か、超自然的な霊や精霊、幻獣などなのだろうか。

力を借りるのか、力を授かるのか、力を身につけるのか。



仮に誰でもスキルや技、特技を持てるとしたら、一般人からすると1つ持っているだけで十分な代物だ。

それだけで多くの場合、他人とのパワーバランスが大きく変わるので、人生が変わる。

スキル1つで最強・最高系の作品は、その人生の変化具合を楽しむものだ。


スキルが現れるような変化に長くさらされた世界では、社会情勢もそれによって覆る可能性がある。

スキルが人生に非常に大きな影響があることが世界的に周知の事実なら、世界はその優位性をもとに再偏される。

王族や貴族が資本主義や民主主義によって覆されたように、スキル主義と言われるような、スキル特性を主軸にした社会構造が成り立つはずだ。


スキルがあっても解明されていない時期であるか、何かの団体によって秘匿されているのかにもよって、社会の情勢は変化するだろう。

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