第8話

夏休みが明けた。教室では高校最後の夏休みの思い出を語ったり、彼氏だ彼女だの話をしている奴がいたり。方や、勉強を疎かにしてしまったことを悔いていたり。本当にいろんな話題が飛び交っている。

「修也~。お前はどんな夏休みだった?」

斜め前の席に座る高瀬が、椅子に跨って俺に聞く。振り向いた高瀬の肌は、焦げ茶色の焼けていた。サッカー部は冬まであるから大変だなぁ、なんて他人事のように思いながらこの夏の出来事を思い返す。

「別に、特に何もなかったな。まぁ、隣が静かになったくらい?」

胸が切なくなっていることに気づかないふりをして、笑顔を作る。

「葵ちゃん。元気にしてっかなぁ? てか、連絡とかしねぇの?」

「しないよ、面倒だし」

高瀬に喧嘩したんて言ったら「東京行ってでも謝って来い!」とキレられるのが目に見えているから、尤もらしい理由で言葉を結ぶ。

「幼馴染みって、案外そんなもんか」

「そーだよ。甘い幻想を抱きすぎ。漫画とかドラマみてぇなことはねぇよ」

妄想という自由の世界から引きずり降ろされた高瀬は、少し悲しそうな顔をして視線を黒板の方に移した。

 手持ち無沙汰になって窓の外に目をやる。空は薄灰色の雨雲で一面覆われている。ポツリポツリと窓にぶつかる雨の音をゆったりと聞きながら、変わり映えのない空をぼんやりと眺めた。

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