最終話【ごしゅじん、大好き!!】
「おかえりごしゅじーん!」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
陽が早く暮れるのもすっかり定着した、ある年の迫った冬の日。
寒空の中クエストから帰ってきたくたくたの俺を出迎える姉妹の顔を見て、今日の疲れが一気に吹き飛んだ。
二人共しっぽを大きく振って、まるで飼い主の帰りを心待ちにしていた犬みたいで愛おしい。
「お疲れのところ申し訳ないのですが、まだいろいろと準備が終わっていなくて」
「ごしゅじんもおへやのなか、いっぱいかざろー」
「ダメよトリーシャ、ご主人様はお仕事で疲れているのだから」
「えー、だってみんなでやったらぜったいもっとたのしいのに」
トリーシャの手には折り紙で作られた短い輪飾りが握られており、丁度作っている真っ最中だったのだろう。
――そう、今日我が家ではクリスマスパーティーを開催するのだ。
「わーい! ごしゅじんもいっしょにおかざりてつだってくれるってー!」
「ご主人様まで......もう、トリーシャを甘やかすのもほどほどにお願いしますね?」
駆け喜ぶトリーシャと、少し呆れた表情のリーシアに見送られ、一旦着替えをするために自室へと向かった。
秋頃から俺は、週に一・二回程度ギルドのクエストをこなしている。
内容としてはモンスターの討伐だったり、貴重なアイテムの採取――と、大~小様々。
別に老後まで余裕で暮らせるお金は持っているので、わざわざ危険なことをしてまで稼ぐ必要はないのだが......なんというか、一応俺はこの子たちのご主人兼父親代わりなわけで。
直接見せることはできないけれど、働く親の背中を子供に見せたい的な? そんなノリでギルドに登録をした次第だ。
***
「...もぐ...もぐ......おかわり!」
「トリーシャったら、相変わらずチキンライスが大好きなのね」
「うん! おふくろのあじがする!」
テーブルにローストチキン・ピザ・フライドポテト――等といった、クリスマスパーティー定番の料理が並ぶ中、トリーシャちゃんは俺と姉妹の距離を近づけてくれた思い出の料理、チキンライスを早いペースで食していく。
「おふくろ......とは、確かご主人さまの
「そうだよー。とりーしゃ、ちきんらいすがいちばんだいすき! だからおふくろのあじ!」
「......えーと、褒められていると思ってもよいのでしょうか?」
テーブルを挟んで向かい側のリーシアが、小首を傾げる苦笑する。
まぁ、おふくろの味には『懐かしい味』という意味以外にも『大好きな味』という意味も入っていると考えも問題ないので、素直に誉め言葉として受け取ったらいい。
「私もご主人様の故郷の言葉、もっと知りたいです。今度、何かご主人様のオススメの御本を読ませてくださいね」
できればリーシアにはトリーシャちゃんみたいによご......中二病的知識はあまり教えたくないのが俺の本音。
ここは無難に料理漫画・孤〇のグルメ辺りでも渡しておくか。
――それよりも、そろそろクリスマスパーティーの本題に入るとしよう――
「え? 私たちにプレゼントですか? そんな申し訳ないです。衣食住を与えていただけているだけで幸せなのに、そのうえプレゼントだなんて」
「ごしゅじん! とりーしゃになにかくれるのー!?」
突然のことにリーシアはきょとんとした表情になり、すぐさま両手を前に出して遠慮の言葉を口にする。
これは俺に幸せを与えてくれた姉妹へのお礼と、これからもよろしくを込めた、感謝のしるしである。遠慮しないで受け取ってほしい。さもないと、今日のクエストで得た苦労が無駄になってしまう。
「......これは、ペンダントでしょうか? 吸い込まれるような透明な石がとても綺麗ですね」
リーシアに渡した、軽くラッピングされた小さな箱の中から出てきた物は、中心に小さな宝石が埋め込まれた銀色のペンダント。
普段使いできるようシンプルなデザインだが、俺がこの日のために磨いた錬金スキルで生み出した一品物。
宝石は今日のクエストで手に入れた超レアな特殊石で、身に着けた者を一度だけ死の世界から生還させる効果を持っている。
手に入れるのに、とにかく素早くてめちゃくちゃ硬いアイツを何十匹倒したことか。
「とりーしゃのはなんだろなー......あ!」
リーシアと同じサイズの小さな箱をトリーシャちゃんが開けると、そこには真っ赤なリボンクリップ。
「これ! こなんくんがつけてるのとおなじやつだ! ありがとーごしゅじん!」
名探偵コ〇ンが大のお気に入りにのトリーシャちゃん。
きっと喜んでくれるだろうと思っていたが、ここまで瞳を輝かせつつシッポを大きく横に振って喜ぶとは。作ったかいがあったというものだ。
残念ながらボイスチェンジ機能は無いが、このリボンの結び目の中にも、リーシアのペンダントの宝石と全く同じ物が入っている。
「どうですかご主人様? 私たち、似合っていますでしょうか?」
「とりーしゃも、こなんくんにみえる?」
気に入ってくれたのか、二人とも早速身に着けて嬉々と俺に披露する。
良かった、違和感なくアクセサリーがいい塩梅に服装に溶け込んでいる。
できればいつでも俺が二人を守ってやりたいんだが、どうしてもそれが叶わない時がやってきてしまう。
いわばこのアクセサリーは、俺の代わりに姉妹を守ってくれる御守り。
「ありがとうございます、ご主人様......一生大事にしますね」
幸せそうに微笑んでお礼を伝えるリーシアに思わずドキっとしてしまい、誤魔化すようにピザを食べようとするも上手く食べられず、頬のあたりにかすってしまう。
「あ、ご主人様、頬にチーズが......」
そう言って立ち上がったリーシアは俺の横までやってきて、拭いてくれると思いきや――
......ちゅっ。
感じたのは布の感触ではなく、柔らかくて、それでいてみずみずしくもある温もり。
「――ふふ、これは私からの、せめてものお礼です」
「ねーねーずるーい! とりーしゃもごしゅじんにおれいのちゅーするー!」
リーシアは照れながらも
......ブラック企業の社員並みにブラックな勇者の仕事を辞め、成り行きで奴隷市場で購入してしまった、ケモ耳シッポな可愛らしい姉妹。
異世界でも自分の居場所がないと絶望していた俺にとって、彼女たち姉妹は救世主・希望であり、本当の子供のような存在。
勇者から養父に第三の人生、ジョブチェンジも悪くないな――仲睦まじく俺を取り合う姉妹のやり取りを眺めながら、つい顔がくしゃっとなった。
◇
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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......ちなみに、ヒロイン二人はG’sこえけんの特別審査委員を務める前田佳織里さん・小岩井ことりさんを意識して作っておりました(*´ω`*)
異世界召喚された元勇者の童顔おっさんは、奴隷ケモ耳シッポ姉妹に癒やされたい。 せんと @build2018
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