第10話 募る不安

 僕とトニーは大急ぎで屋敷に取って返した。


自室に戻るとクローゼットから落ち着いた色合いのグレーのスーツを選び抜くと袖を通した。


「……よし、完璧だ。これなら相手に好印象を与えられるに違いない」


どうも僕はシェリルの屋敷の者達から好印象を持たれていないようだからな。まずは格好から入っていかなければ。



コンコン


その時、タイミングよく部屋の扉がノックされて声が聞こえて来た。


『ローレンス様、トニーです』


「トニーか?入ってくれ」


すると扉が開かれ、トニーが室内に入って来た。


「どうだ?トニー。この姿は?」


トニーは上から下までジロジロと僕を見渡すと頷く。


「そうですね。宜しいのではないでしょうか?それより言われた品の用意は出来ましたよ」


トニーは手にしていたバスケットを少しだけ持ち上げて見せた。


「そうか、ならすぐにシェリルの屋敷に向かおうっ!今日は絶対追い返されるものか」


「はい、そうですね!」



そして僕達は今度は屋敷の馬車を使ってシェリルの元を訪ねた――。





****



「ローレンス様。またいらしたのですか?あまりしつこいとシェリル様に嫌われますよ」


エントランスまでやってきたメイド長は呆れた様子で僕を見た。


「な、何もそんな言い方をすることは無いんじゃないか?」


痛いところをついてくる。

大体、僕は既にシェリルから『大嫌い』と言われているのだ。

けれど、今の口ぶりではメイド長は僕がシェリルから嫌われていることを知らないのかもしれない。


「それで?今日は一体どのようなご用向きでいらしたのですか?ご丁寧にトニーさん迄連れて」


メイド長はジロリとトニーを見るも、彼は視線をそらしている。


うん、中々の図々しい態度だ。それでこそトニー。


「実は今日はシェリルの大好きなマカロンを持ってきたんだよ。彼女はうちのシェフが作ったマカロンが大好きだから」


「マカロンですか。なるほどねぇ……」


メイド長は両腕を腰に当ててバスケットを見ている。


それにしても……彼女は仮にも僕が子爵家の貴族だということを分かっているのだろうか?

けれど、4歳の時から僕を知るメイド長にとってはまだまだ子供だと思われているのかもしれない。

その証拠に僕だって、メイド長の前では強く出れないのだから。


「まぁ、折角なので受け取らせて頂きますが……シェリル様は気分が優れないので、誰とも会いたくないと仰っているのですよ。ですからお引き取り願えますか?」


何だってっ?!

シェリルは気分が優れない‥‥?

ということは、やはり具合が悪いのだろうか?


僕とトニーは思わず顔を見合わせてしまった。


「どうしたのです?マカロンならお嬢様に渡しておきますよ?」


「い、いや。確かにこれはシェリルへの手土産だけど…今日ここへ来たのはシェリルではなく、シェリルの御両親に会いに来たんだよ。日曜日だから2人とも、家にいるよね?」


「いいえ?旦那様と奥様はいらっしゃいませんよ。3日前に急用が出来てお2人で出掛けられたのです」


「「急用だってっ?!」」


僕とトニーは同時に声を上げた。


ま、まさか……不治の病に侵されたシェリルを助ける為に有能な医者を探しに行ったのだろうか?


僕の不安は益々募っていく――。

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