第6話 スライムの塔、攻略2

人がいるとアレンが言うので私は動きを止めて誰が居るのと確認しようとすると、透明なスライムの向こうにチラと人影が見え、あっ、と思った瞬間には炎の魔法を使ってスライムに穴をあけてこちらに駆けおりてきた。


「うわっ」


アレンは炎に驚いて飛び上がり、そして駆けおりてきた人は慌てたせいか階段を転げそうになり、慌てて受け止めて立ち止まらせる。


相手は質素な布の服に、少し値段の張りそうな長いローブを着た女の子。

顔は深くかぶったフードでよく見えないけど、あごの輪郭や唇、鼻筋を見る限り整っているように見える。


「冒険者…よね?大丈夫?」


とにかく無事かどうかの確認をしようとすると、サードがスッと女の子と私の間に割り入って女の子の手を取った。


「どうしましたお嬢さん?こんなところで。お一人ですか?」


「はぁ…まぁ…」


女の子はもごもごと口を動かしながらサードに取られた手を引き抜いて自分の後ろに隠した。


「他に仲間はいないの?」


やめなさいよとサードの前に出て聞くと、相手は、むー、と口を尖らせて黙り込む。


「怖い目に遭ったのですか?」


サードが私の前に出て女の子の顔を下から覗き込むように…いや、実際に顔を覗き込もうとしている。それもさも心配しているかのような口ぶりと声色で女の子の肩を抱え、そっと抱き寄せる。


「やめて」


相手は心から嫌そうな声を出し、顔を背けながらサードを押しのけた。


「私、あんたに肩抱かれるほど親しくないんだけど。初対面だよね?」


「…」

よく言ってやったわ!それ見なさい、皆あなたになびくわけじゃないのよ、やーいやーい!ざまーみろー!


なるべく表に出さないようにしているけど、私は心の中で大喜びでジャンプをし続け勝ち誇った高笑いを浮かべている。でも思わずニマニマと笑いが漏れてしまう。


サードはこんなに完全拒否されてどんな顔をしているのかしらと顔を見ると、つまらないことにサードの鉄壁の表の仮面は外れていなかった。


「そのようなつもりでは無かったのですが…不快にさせたのなら謝ります、申し訳ありません」


サードは卒のない対応で身を引き、


「しかしどうしてここにお一人で?まさか我々より先に進んでいる方が居るとは思いませんでしたが…エリーの言う通り、仲間はいらっしゃらないんですか?」


と何事も無かったかのように聞いた。


女の子は口を尖らせ、少し黙り込んだ後にポツリポツリと話し始めた。


「二人パーティなんだけど…ここの階段を埋め尽くすスライムを何とか通り過ぎてたら仲間が消えちゃって」


「どういうことだ?」


アレンが聞くと、女の子は階段の上を向いた。


「このらせん階段の残り十段ほどにはスライムがいないの。そこを上がってたら、急に目の前から消えちゃって。もしかしたら壁のどこかに転移するトラップが仕掛けられてるんじゃないかな。その子、らせん階段は手を壁につけながら進んだ方が楽だって言いながら進んでたら急に消えたから」


「なるほど」

「そんな時に私たちが来たってわけね」


サードが呟いて私は頷きながら独り言をいうと、女の子がジッと私を見てくる。


「ん?」


どうかした?とばかりに女の子を見返していると、女の子は私、サード、アレンの顔を見渡し、少し首をかしげて、


「…もしかして勇者御一行?」


と聞いてきた。


その質問に思わず身構える。またあの圧のあるファンコールのようなものがあるのだろうか。


「…ええ、まぁ…」


それでも確かに自分たちは勇者一行だから認めると、女の子はしばらく自分たちの顔を見まわした後に、へぇーと声を漏らす。


「何で勇者たちがこんなスライムしかいない塔に来たの?暇だったの?」


良かった、この女の子はテンションの低い子だ。

ホッとしているとアレンは透明なスライムを見上げ、


「なぁ先に進まねぇ?なんかスライムの形が元に戻ってる気がする…」


アレンの言う通りスライムはモニョモニョ動きながら元の形へと戻りつつあって、アレンの顔が「うへー、気持ち悪い」という顔つきになる。


「どうですか?ここで一人でいるよりなら共に進みませんか?」


サードがそう言いながら女の子に声をかける。

表向きの顔をした勇者という立場上、仲間とはぐれた人を見捨てられないというのと、可愛い(と思われる)女の子だということが決め手だろう。


相手はサードを見て少し迷っているような素振りをしたけど、それでも、


「そうだね…お願いしようかな」


と申し出を受け取った。


サードも女の子を安心させるように微笑でいる。でもこの警戒心の強い女の子をどう口説き落とそうか頭の中であれこれと考えてるんだろうなと思えた。


なぜならその目付きが女の子の顔から体をなめ回すように見ているから。

もちろんそんなあからさまには見てないし見た目にはただ人を安心させるような表情を浮かべる勇者の姿しかない。

でも散々サードの裏の顔を見ているから微妙な表情の変化には悟くなっている。


「では行きましょう」


サードはそう言いながら歩きだし、


「ちなみにどの辺りでお仲間は消えたのですか?」


と女の子に質問しながら先頭を歩き出す。


女の子が炎で焼き、そこから元に戻りつつあるスライムをサードが切り裂きながら進んでいくと確かに残り十段ほどには透明なスライムは居なかった。


むしろ最初からサードが今みたいに聖剣でスライムを切りながら進んでも良かったんしゃないかとふと思った。

多分面倒だったんだろう。サードはそんな男だ。


「ここから壁は触らない方がいいよ」


女の子が階段を上がっていくサードに注意を促す。


「分かっていま…」


話の途中でサードの姿がその場からかき消えた。


「ええっ」


驚きの声を上げて、私はサードの居なくなった所を見る。


「…もしかして壁じゃなくて、階段の段に転移のトラップが仕掛けてたんじゃねぇ?」


アレンがそういうと、女の子はゆっくりとアレンを見る。


「そうかも」


そりゃあ普通は壁より段にトラップが仕掛けてあるものだろう、なぜ今まで…サードすらも気づかなかったんだろう。いや、サードは狙ってる女の子に声をかけられて気がそれたのかも…。


「勇者、消えちゃったね…」


女の子の言葉にアレンは、気にするなとばかりに女の子の肩を叩く。


「いやいや大丈夫大丈夫!サードは一人でどこかに行っても無事に戻ってくるから」


サードは地獄に落ちても這い上がって来るだろうとアレンと私の間で話題になるほどのしぶとさがある。どこに行ったのか分からないけど放っておいてもそのうち戻ってくるだろう。


とにかくトラップのある段は分かったんだからそれを抜かして先に進もうという話になったけど、一段一段の幅は広く、らせん階段の内側の狭い箇所(かしょ)でも大股でまたがないといけないほどだ。一番外側の階段幅なんて、一メートルは軽く超えている。


「じゃあ俺が先にいって手引くよ」


アレンはそういうと軽々と一段を抜かす。アレンは高身長だからその分足が長い。


が、一段抜かして足を着地させた瞬間にアレンの姿が消えた。


「えええっ」


サードが消えた時より驚いた声を出して叫ぶ。まさかのトラップ二段構えだった。


「…」

エリーは無言で女の子をチラッと見た。女の子も黙ってこちらを見ている。


「…さすがに二段抜かしはできないわね…」


女の子にそう話しかけるか否(いな)かの時に手を握られた。


驚いて女の子を見ると、女の子は手をスッと動かす。すると石の壁に急に木の扉が現れ、女の子はその扉を開けた。


「来て」


口を挟む隙も無くエリーは女の子に引っ張られ、扉の向こうへと足を踏み入れた。


そこは今まで何度も通ってきたフロア…。


でも今まで見てきたフロアと違うのが奥が一段高くなっていて赤いカーペットが敷かれ、そのカーペットには立派な椅子がある。

その椅子の周りにはヒラヒラと透ける素材の布が張られていて、こちらとあちらを分ける境界線のようになっていた。


「…ここ…どこ?」


女の子にそう問うと、女の子は何も答えずにトコトコと立派な椅子の方へと歩いていく。そして椅子の前に立つと空中から杖が現れ、女の子は杖をキャッチする。


「ババーン」


感情がろくにこもっていない口調で相手は自慢気に杖を高く上げながら言う。


「私はここのラスボス、ラグナス・ウィードでーす。イエー」


女の子はテンションの低い口調でテンション高めなことを言うと、ピースをした。

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