第12話相棒(バディ)

冒険者ギルドの朝。


いつもの席、いつものコーヒー。


俺と相棒のスタルクは武器を手にとりひとつひとつ磨く。


いつでも危険に飛び込めるようにだ。


日課をこなしつつ苦いコーヒーに砂糖を入れると相棒は相変わらずだと笑う。


「お前はこのハムエッグのように半熟だな」


コーヒーの味ひとつで俺のハードボイルドは左右されない。


「ちょっと掃除の邪魔なんだけどそこをどいてくれない」


やれやれと肩をすくめてリラの憎まれ口も華麗にスルー。


「こいつら」


今日で5日、依頼は舞い込んでこない。


それだけ世間は平和だということだ。


ひとまずは平和な日常に乾杯といこう。


“チャリンチャリン”


客が入ってきたことを知らせる呼び鈴が鳴った。


事件の知らせだ。


『おいあれって⋯⋯』


『やっぱそうだよな』


『ウィンディル家のご令嬢⋯⋯』


ギルド内が急に騒然としはじめた。


「お兄様の墓参りに行ってくれたそうだな」


そう言って今回の依頼主は俺たちのテーブルにつく。


「お父様もコルトお兄様のために墓参りに来てくれる友人がいたことに驚いていたぞ」


「キルリス様、礼を言いに俺たちのところへやってきたんじゃないんだろ」


スタルクが尋ねる。


「そうだ。お前たちにローテス領に溢れかえったアンデットを倒してほしい」


「おいおい。アンデットってずいぶん穏やかじゃないな」


「婚約者の勇者ハルティス様がダンジョン攻略に失敗したようだ。

依然と行方が知れない。私の責任だ」


キルリスは涙ぐむ。


「これは報いだ。頼む。アンデットからローテス領の民を救ってくれ。それと⋯⋯遺体でも構わないハルティス様を見つけ出してほしい」


勇者ハルティス⋯⋯懐かしい名前だ。


そしてリラの入れたコーヒーのように苦い思い出。


「これはお父様が言っていたことだ」


俺は墓参りの帰り、目の前に現れたガオルド・ウィンディル公爵の誘いでお茶をすることになった。


公爵はスタルクがいた“ニホン”の話に興味津々だった。


とくに領民が領主を選ぶという仕組みに感心していた。


『非常におもしろい話が聞けた。領民の豊かで平和な暮らしを守れるならば領主など同じ一族で継ぐ必要はない』


スタルクは時が経てばこの世界もそのようになると返した。


『俺がずっと考えてきたことだ。だからこそキルリスには公爵家とは無関係の穏やかで普通の暮らしをしてほしかった。

キルリスの母親の願いでもある。キルリスを娘を許してやってほしい⋯⋯』


父親の本音を聞いたキルリスは涙をこぼしながら応える。


「私は家督を手に入れようとするあまりお父様が望んだ領民の安寧をおろそかにしてめちゃくちゃにした。

報酬はいくらでも出す。頼む!」


報酬? そんなものレディが流した涙だけで俺たちが戦う理由になる。


「行くぜ相棒」


スタルクが“泣かないで”と口ずさみながら立ち上がる。


「もちろんだ」


「!」


***


高台からローテス領中心地の市街地を見下ろす。


「リッチーにスケルトンソルジャー、ゾンビ化したゴブリン、アンデットでうじゃうじゃだな」


そして山の上に鎮座しているアンデットドラゴンがダンジョンの主か。


「腕が鳴るだろローグ」


「もちろん」


「なにか言いたそうだな?」


「なぁ相棒。魔力量と敵の数あっているか?」


「俺もそう思う」


「なんか考えはあるか」


「どうした? 怖気付いたのか?」


「そちらこそ。俺は現実と向き合っている」


「なぁシオン。世の中、勢いとノリだけじゃどうにもならないことだってあるんだぜ」


「ローグだ。あとはなるようになれって手が残っているぜ」


「そいつはお手上げだ。それじゃあここでなんとか突破口を開いてやるかな」


そう言ってスタルクは空中に発現させた魔法陣の中から見たこともない武器を取り出す。


「こいつはガトリング砲っていってな。なるようになるにはちょうどいい」


スタルクが引き金を引くと砲身が高速回転。


けたたましい音を立てながら魔道弾を連続発射する。


「なんだこいつは。リッチーたちがひとたまりもないじゃないか」


「なるようになるにはちょうどいいって言ったろ。ローグはそこに置いた魔道ロケットランチャーを。

近づいてあのドラゴンにぶちかませ」


「やってやるよ」


『それじゃあ僕も手伝うよ!』


「パラド⁉︎ 聖女様がどうして」


「うーん、アンデットかぁ。命は吸えないけどスタルクとここで時間を稼ぐよ」


「頼んだぞ」


俺は急斜面を降りてドラゴンのところへ向かう。


通り道はスタルクと聖女パラドが確保してくれた。


俺は全力全開で突っ走るだけ。


森林に入り、ドラゴンの姿がだんだんと大きくなってきた。


「魔道ライフル!」


まずは目覚めの一髪だ!


バンッ


『ギャオオン!』


まずは肩を撃ち抜いた。


そして起き上がったところをお腹に2発。


バンッ、バンッ


的がデカい!命中!


今度は翼を羽ばたかせてきて強風が襲う。


「空に逃げるつもりならさせるか!」


高くジャンプしてドラゴンの背中に飛び乗る。


魔道刀を突き刺して走る。


「うおおおおおッ!」


「ギャオオオン!」


翼がもげてドラゴンは巨体を地面に叩きつける。


ドラゴンは振り向いて俺に向かって口を大きくあける。


「このときを待ってたぜ」


俺は担いでいた魔道ロケットランチャーを構えて発射した。


鉄の矢が火を噴きながら飛び出してドラゴンの口の中へと入っていた。


そして強い熱がドラゴンの体内で爆発して、ドラゴンを中から吹き飛ばしてゆく。


「⁉︎ おいおい!」


***


白い光に包まれて気がつけば崩壊したダンジョンの前で倒れていた。


「生きているじゃないか相棒」


「あんだけの爆発でよくだね」


「お陰でマスクが外れちまった」


『シ、シオン⋯⋯』


「ローグだ⋯⋯ !⋯⋯勇者ハルティス」


木を背にして座り込んでいる人物は確かに勇者ハルティスだ⋯⋯


顔や身体の皮膚の腐食ははじまっているがまだわかる。


「モンスターのやられたのか?もう長くないぞローグ」


「ああ⋯⋯」


いけ好かないやつだったがこうして見ると惨めなものだ。


「ま⋯⋯な⋯⋯い」


ハルティスはうめき声をあげて何かを訴えかけている。


「楽にしてやるか?」


「俺がやる」


魔道ライフルを構える。


「命は僕が吸ってあげる。無駄にはならない」


ハルティス懺悔は無用だ。俺のパーティーはお前たちよりもずっと強かった。

それだけだ。勇者パーティー⋯⋯これで解散だ。


バンッ


***

数日後ーー


公爵令嬢の身分を捨てたキルリスは冒険者ギルドの新しいマスターになった。


前マスターは涙まじりにコーヒーを飲むキルリスの肩を揉む。


雰囲気も新たになった冒険者ギルドに今日も俺たちはやってくる。


「ローグさん!スタルクさん!」


「シルフィー⁉︎」


「たった今冒険者登録がおわりました。

今日からヒーラーです。よかったら私をお二人のパーティーに入れてください」


「もちろん」


「ちょっと待った。シルフィーは僕とパーティー組むんだよ」


「聖女様⁉︎」


「それはないぜパラド」


「せっかくならこれから4人で」


「それも悪くないね」


「ではさっそく。リラ、依頼を用意してくれ」


「あるわけないでしょ」


「「やれやれ」」


Season1・完 


いつかまた




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異世界で最も危険な冒険者〜勇者パーティーを追放された俺だが魔王の鎧を着て相棒(バディ)と駆け出す冒険譚 ドットオー @dogt

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