第4話バシャヅメ

荒野の一本道を突き進む一台の馬車。


馬の手綱をひく俺の我慢は限界を越えていた。


「スタルク。いつまで俺に手綱を握らせているつもりだ」


「またか? さっき交代したばかりじゃないか」


「もう4時間だ! 教会を出てからずっと俺が運転しているじゃないか!」


「ああもうそんなに時間が経ったのか。すまない。聖女様の話が面白くて体感5分だったわ」


「途中飽きて、寝ていただろ!」


「おいおい。俺がレディとの会話に退屈して寝ていただって? ありえない。神に誓ってもいい。ちょうど聖女様も目の前にいることだしな」


「信仰心のカケラもないクセによくいう」


「待ってくれよ。俺のいた世界は八百万の神といって。道端に転がっている石ころですら神様として崇めたんだぜ。

こんな美人の神様だったら四六時中拝み倒せるぜ。ありがたや。ありがたや」


「拝んでいるのそれ聖女だから」


「どっちも同じようなもんだろ」


「やっぱりひとカケラもないじゃないか」


「おいおい。さっきの神父様のハゲ頭を引っ叩いたらいい音がしたって話なんか最高だっただろ」


「してないぞ。そんな話」


「⁉︎ おっと。そりゃあないぜ聖女様」


「フン。ボロが出たなスタルク」


「ハハハ。面白い奴らだ。ローグといったな。なんやかんやいっていい奴だな」


「そうだろ。悪ぶっているけどいいやつなんだよ。なぁシオン」


「ローグだ」


「それで聖女様。本当はどんな話をしてたんだ?」


「おっと。開き直るんだねぇ」


「神父様が顔を洗う桶を頭の上に乗せて歩いていたところまでは覚えているぜ。

それで? どうなったんだい」


「言わなーい。興が冷めた」


「そりゃあないぜ」


「どっちがだよ。ハハハ」


美人という形容詞しか見つからない金髪碧眼の聖女様。


馬車に乗った瞬間からあぐらをかいて意外にもサバサバとした性格に驚かされた。


そんな彼女をどうして俺たちが警護することになったのか。


それは一日前に遡るーー


『ギルドマスター! なんでそんな依頼受理しちゃったんですか!』


レディにしてはめずらしく冒険者ギルドの主人に詰め寄っていた。


「お、落ち着いてリラくん」


「ずっと前からお願いしているじゃないですか。教会の依頼だけは断ってくださいって」


「そうなんだけど⋯⋯」


「ギルドマスターだってわかっているでしょ! 教会の依頼って派遣した冒険者の服装が気に入らなかったとか

鎧に泥がついていたとか細かいいちゃもんをいっぱいつけてきて、苦情対応する受付の私たちがすごく大変だったんですよ。

禁則事項だって多いし、ギルドのやり方にやたら口を出してくるし」


「だけどギルドとしては依頼主を区別するわけには」


「ですが聖女様の警護なんて失敗したらマスターの首が飛んで市中に晒されますよ!」


「だ、だから空いているアダマンタイト級の冒険者はいないかと尋ねているんだよ。

この際、オリハルコンでも構わない」


「そんな真っ昼間から暇している上級冒険者なんていませんよ」


「ちょっとリラちゃん」


「先輩どうしました」


「さっきからチラチラこっち見ている2人組はなんなの?」


「ああ⋯⋯」


「もう4時間よ。4時間もあの席に座って2人でトランプやりながらこっちを見てくるのよ」


「あの2人はああやって自分達にクエストのオファーが来るのを待っているのよ」


「なんでそんなことしているのよ。クエストなんて掲示板にいっぱい貼ってあるんだから自分達で取りに行けばいいじゃない」


「なんでもクエストの方からやってくる方が“ハードボイルド”でカッコいいんですって」


「ハードボイルドって何?」


「さぁ?」


「もうあの2人でいいんじゃない? 見た目だけはアダマンタイト級だし」


「先輩、見た目はアダマンタイト級でもカッパーはどこまでもいってもカッパーですよ。

しくじったらマスターが即ギロチンですよ」


「⁉︎ それだけはーー」


「センパーイ」


「リラちゃん、甘えた顔してもダーメ。私が担当している冒険者には適任者はいないわ」


「ズルい。苦情対応したくないだけじゃないですか」


「はぁ⋯⋯これはウィンディル公爵家の次男からの依頼でもあるのにどうしたらいいんだ」


「リラちゃん、さっきの2人、今度は武器を手にしながらポーズ決めてるけど。

何アレ? 俺たちならやれるぞアピール?」


「うっざ⁉︎ 」


「めんどくさい冒険者担当しちゃったね」



「はぁ⋯⋯ ⁉︎ そうだ。今回だけギルドマスターがあの2人の担当になっていただけませんか?」


「はい?」


「私、閃いちゃったんです。厄介者には厄介者って」


「それって閃きでもなんでもなく僕に押し付けるってことだよね」


「ギルドマスターが勝手に引き受けたんだから責任取るのは当然でしょ!」


「は、はい」


***


などというやりとりがあって聖女パラドを教会からウィンディル公爵の屋敷までの警護を任された。


しっかし偶然というかなんというか奇妙な縁があるものだ。


聖女様の世話係として同行している修道女は先日の盗賊の一件で家族を失った少女シルフィーだ。


「⋯⋯」


シルフィーはお姉さんを亡くしたショックで声が出なくなってしまったらしい。


聖女の話だと心の傷が癒えるまでの一時的なものらしいが⋯⋯


「⁉︎」


突然のことに俺は馬車を急停車させる。


その反動で荷台の3人が宙に浮いた。


「「「⁉︎」」」


俺たちの行手を塞ぐように数十台の馬車と大勢のヒト。


「敵襲だ!相棒」


「来たか!」


馬車を囲んだ族はざっと数えて150人以上。


魔道ライフルを手に俺と相棒が飛び出す。


するとーー


影が俺たちの頭上を飛び越えてゆく。


「⁉︎」


俺たちの目の前に着地した影の正体は巨大な斧を担いだ聖女様だった。


「待ちくたびれたぜ。さぁ血祭りのはじまりだぁーッ!」


つづく













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