第7話【最強】の加入

「ようやく、現れたな・・・ろくに魔法も剣も使えないというではないのによくのこのこと来れたものだ!」

「ごたごたうるせえぞ、デブ、さっさとこい、メイドのあんたらは玄関以外の戸締りでもしっかりしておいてくれ」

「全員やつの首をはね、私の前にさしだせ!」


 彼の言葉を聞くと三姉妹のメイドたちは何かを察したように走り出す。

 彼は余裕な態度で指をポキポキ鳴らし、デンブリー卿はその態度に憤慨し兵を差し向ける。

 無理だ、この人数差覆るわけがない、昔格闘の本でみたことがある、もし戦うもの達に戦闘力を決めて数値が高い方が戦闘に勝つとしての1対1のその2は足し算での数値ではないのだ、2の方は一人を囲めばそれだけで1の方は集中を分散しなければいけない、考えなければいけないことも増す、つまり敵が二人の場合難易度は倍以上に跳ね上がる、しかもそれが今回は100対1・・・魔法使いでも【剣豪】でもない彼にそれは不可能だ。

 しかし絶望的な状況に諦める私に彼は笑って語り掛ける。


「絶対に無理です・・・」

「そんな顔するなよ、俺に任せろ、お前の騎士が全部どうにかしてやる」

「100人ですよ・・・?いくら腕に覚えがあるからって・・・あなたが強いのは聞いていますがそれは1対1や1対3の話、1対100じゃ話が違います・・・」

「ノンノン・・・お前に戦闘のいろはを教えてやる」


 そう言うと彼は館の扉を開けたままにし、扉の後ろの玄関に立ち剣を抜く。

 大量の兵士が私たちの方に向かってくる、やっぱり無理だ、無理のはずなのに・・・

 その自信満々の騎士の背中姿はなぜかとても安心できた、まるで絶対防御の壁のような。


「死ね!騎士!」

「フン!」


 ザシュッッ


「ハァァァ!」

「フン!」


 ジャキッッッ


 来る兵士を剛撃ともいえるすさまじい威力の一撃で切り刻んでいく、玄関の前にはどんどん切られ倒れる怪我人が山のように積もっていく。

 な、なんで・・・こんな簡単に・・・

 数10人ほど切るとあまりの強さに兵士たちの足が止まり始める。


「なぜだ!なぜ奴を殺せない!我々の方が数は圧倒的に多いのだぞ!」

「それが想定以上に奴が強いのです・・・」

「奴は曲がりにも騎士だ!強いのはわかっておるだろう!だからこその圧倒的な数の差だ!」

「それが数の利が生かせないのです・・・」

「どういうことだ・・・」


 業を煮やしているデンブリー卿は兵士に怒鳴り散らしている。


「アヤナ、お前の言う通り、俺だって100人に360°囲まれたら勝てねぇ、俺が一気に相手にできるのは3人が限界・・・なら三人ずつ相手にすればいい」

「もしかして・・・」

「そういうことだ、この玄関はせいぜい一気に入れるのは3人が限界、つまり俺がここにいる以上あいつらにいくら数がいようと1対4以上の構図が生まれることはないのさ、覚えとけ、1対多数をやる時は常に狭い場所を心掛けろ、それでしっかり自分が強ければ1対100でも倒せる」


 豊富な戦闘経験から出うるアイデア・・・一見パワーだけの男に見えてしっかり頭を回している。

 でもこれはその前提にあるのは圧倒的な強さあってのことだ、普通の人間は訓練された兵士相手に1対3なんてのはできない、強者にしか浮かばない、考えないこと。


「いてぇ・・・たすけてくれぇ・・・」

「死ぬ・・・死んじまう・・・」


 斬られた兵士たちは痛そうに傷口を抑え悶えている。

 その姿は彼の恐ろしさを引き立たせる。

 よく見ると誰も死んでいない、わざと殺さずに演出したんだ・・・


「さぁ、お前らも見ていた通り、この館の入館料は命だ!うちの姫に近づきたいなら覚悟して来い!」


 騎士の怒号に兵士たちは立ち尽くす、ほとんどの兵士の顔が恐怖に歪んでいる。

 兵士たちはみな怖気づいているんだ、圧倒的な強さの騎士に、分かっているんだ、この館には誰も入れないと。


「あの玄関に入れないならほかのところから入ればいけばいいだろう!」

「それがほかの窓にはメイドたちがおり、もし入るなら兵士を分散しなければいけませんが・・・」

「かまわんわ!速く奴を殺せ!」


 彼のさっきの戸締りをしっかりしろというのはそういうことだったのか・・・

 戦闘が続くにつれ、彼の戦闘センスに驚かされる、どこまで戦えばここまでの力を得ることができるのだろうか。

 でもまずい、このままだとどこかの窓から侵入されてしまう。

 しかし私の不安とは裏腹に彼は笑っていた、彼の目は兵士が分散してデンブリー卿の守りが薄くなるのを見逃さなかった。


 彼は全速力で走り、デンブリー卿と距離を詰める。


「誰ぞ奴を止めろ!」


 彼の守りの兵が前に立つも足の竦んだ兵では関係のないことだった。


「邪魔だぁ!」

「ひっ・・・」


 まるでボウリングのピンのように兵士たちは吹き飛ばされる。

 その突進は猪のように速く強く、そしてその強い気迫は恐怖にかられた兵士にとって彼はとても大きく見えただろう。

 騎士の剣はあっという間にデンブリー卿の喉元にかかる。


「今すぐ退かせろ」

「貴様のような平民がぁ――――――」


 ジャキッッ


 剣はデンブリー卿の肥えきり贅肉だらけの太い腕を斬る。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「兵士ども聞けぇ!こいつを殺されたくなければさっさと武器を捨てろ!」


 デンブリー卿の絶叫を意にも止めず、兵士たちに叫ぶ。


「もしそれが嫌ってやつは・・・俺が全員殺す!そしてそいつらの家族も調べて殺してやる・・・子供も兄妹も親も皆殺しだぁ!」


 恐ろしく強い気迫。

 どう考えても兵士たちを止めるただの強迫でわざわざそんな面倒なことするはずがない・・・ないはずなのにあの騎士にはそう言ったらするかもしれないと感じさせるほどの気迫だった。

 その気迫を兵士達は感じたのか次々と武器を捨て手を上げ降伏の意志を示す。


「それでいい・・・ほら、アヤナ!どうにかなったろ?」


 騎士は一度深く深呼吸し全身から力を抜くと振り向き笑顔で親指を立てる。

 すごい・・・一人で約100人の相手を全員降伏させた・・・これが【最強】の男・・・

 騎士の顔は返り血でところどころ赤く血塗られており、その姿はまるで獲物を喰らう獣のようだ。

 私が騎士の強さに感銘を受けていると一人の兵士が向かってくる。


「お前を殺して、首だけでも持っていって売ってやる!」

「はぁ!?」


 その兵士は私を殺そうと武器を振り上げる、騎士の位置は少し遠く瞬間移動でもしなければ届かない。

 そうだ、私はいろんな人間に狙われているその価値は国すらも巻き込む、お金に換えればかなりの額になるだろう、結局私は死ぬようだ、でもそれでいい、あの武上という騎士はあったばかりの私を助けようとしてくれた、私が生きていたらその彼を巻き込みおそらく殺してしまう、私がここで殺されるのは正解なんだ。


「さよなら、武上さん・・・少しですがうれしかったです」


 私の声を聴いた騎士は急いで走り出すも間に合わない。


 これでいい・・・これで・・・


 私の頭の上に刀が振り下ろされるその刹那、また風のような何かがすごい速度で向かってくる。


「【天翔斬】」


 ザシュッッッ


 風は兵士の首を切り裂き、命を奪い、兵士は首から血しぶきを出しながら倒れる。


「間に合ったようだな・・・」

「エレナぁ・・・」


 風の正体は斬撃、そしてデンブリー卿の後ろには騎士と同じように血塗れのエレナが立っている。


「デンブリー卿、あなたにはうその報告で兵士を動かし姫を殺そうとした、虚偽申告罪、殺害未遂罪諸々の罪で、あなたから貴族としての権利、領地、資産の全てを没収するようラナス王国貴族院で即決したとの報告が来た、あなたは終わりだ」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、わしの腕が、腕がぁ」

「話も聞ける状態ではないようだな」

「エレナ、お前よく来れたな、城を囲んでた兵士はどうした?あとレインは?」

「あの程度の兵、城にいる常備兵と私だけで全員降伏させるのは容易だ、レインは今必死に貴族たちと後のデンブリー卿の所領をどうするか決めているところだ」

「おお~かっこいい~FU~」


 戦闘で焦燥しているエレナを騎士が煽る。


「相変わらず腹立たしい男だが・・・姫を助けたこと、そして私たちの陣営に来てくれたことを心から感謝しよう」


 エレナは騎士へ握手の手を差し出し告げる。


「ようこそ、我が陣営へ、そして異世界へ」










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現世最強の俺が何も貰えず異世界に転生されて騎士になったんだが!? ~魔法が使えなからってなめたやつらに俺の力を思い知らせてやる~ 外典 @unpichan88

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