第2話 坂本さんとお弁当

「オタク君、一緒にご飯食べよ!」


 授業が終わり昼食を取るため弁当をカバンから出していると坂本さんに声をかけられた。

 誘ってくれるのは嬉しいが自分なんかが坂本さんと一緒にご飯を食べて良いのだろうか? 彼女は人気あるし、いつも誰かと一緒にご飯を食べている。対して自分はいつもぼっち飯だ。


「むー、いくら私が金髪で美少女のモデルだからって遠慮しなくてもいいよ」


 と口を膨らませながら坂本さんは言った。

 いや確かにそう思ってはいたけどそれは自画自賛しすぎだ。


「あはは、冗談だよ。で? 一緒に食べよ?」


 俺はそれに頷いてご飯を食べようと机をひっつける。


「おっ、いきなり机をくっつけるなんて大胆だねぇ」


 と坂本さんはクスクスと笑いながらそう言った。

 何か不味かっただろうか? もしかして馴れ馴れしすぎた?

 そう思うと急に不安になってきた。


「そんなに顔色を悪くして心配しすぎだよ、オタク君はそれくらい大胆な方がいいと思うよ!」


 と快活な笑みを浮かべて俺を励ましてくれた。

 坂本さんもカバンから袋を取り出したが、そこから動かなくなってしまった。

 クラスのみんなが俺達を見てくるのだ。


「あははは、クラスのみんなに見られながらのご飯は食べにくいね……屋上にいこっか」


 坂本さんもそれを感じていたらしく疲れた様に笑ったあと俺にそう囁いてきた。




「んーー! ここなら人がいないから2人で静かにご飯食べれるね。ちょうどベンチもあるしそこに座ろっか」


 そう言って坂本さんはベンチに腰を下ろした。


「さっ、オタク君もここに座って」


 坂本さんは自分の席の横をポンポンと叩いている。

 が女の子とそんな近い距離に座ってご飯なんて食べられない。

 俺が迷っていると坂本さんは意地の悪い笑みを浮かべた。


「むぅ、もしかしてエリナさんの隣だからって照れてるの? そんな事気にしないでいいよ」

 

 と言うが別に坂本さんの隣だから恥ずかしいわけじゃなくて異性とそんなにくっつく事が恥ずかしいと伝えた。


「え? 私とじゃなくて女の子と近くでご飯を食べるのが恥ずかしいの? ……オタク君、悲惨な人生を送ってきたんだね」


 間の抜けた声を出したあと、とても哀れんだような声でそう言われた。

 やかましわ! と言いたくなる気持ちを抑えて少し距離を空けて坂本さんの隣に座った。


「ちょっと距離あけて座ってるって事はもしかして怒ってる?」


 怒ってないと顔を背けると抱きつかれた。


「すぐ顔を背けちゃって、後ろががら空きだぞー」


「特別にエリナさんがあーんしてあげるからそれで許してよ」


 と耳の近くで囁かれてくすぐったい。距離が近すぎて吐息も聞こえる。

 分かったから離れてくれと頼むと直ぐに坂本さんは離れてくれた。


「許してくれるみたいだし、ご飯食べよっか?」


 そう言って坂本さんは持ってきた袋をガサガサと開け始めた。どうやら坂本さんのお昼ご飯はサンドイッチのようだ。

 俺はお母さんが作ってくれた弁当を開けた。


「おっ、オタク君の弁当美味しそうじゃん! 私なんてモデルの仕事で朝の時間がないからコンビニでサンドイッチだよー」


 そう言ってがっくしとしていたので、俺の唐揚げを一つあげた。


「え? 唐揚げくれるの? ありがと! いただきまーす! もぐもぐもぐ、ん。おいし〜!」

 

 坂本さんもお母さんの料理を満足そうに食べている。


「オタク君のお母さんは料理上手だね〜、私もお礼しないとね!」


 そういうと坂本さんは持っていたサンドイッチを素早く食べた。


「お箸とお弁当貸りるね」


 坂本さんはそう言うと俺の返事を聞かずに俺の弁当を取り上げてしまった。


「よ、よし! じゃあ最初はウィンナーからあげるね。あ、あーん」


 そう言うとぎこちない仕草でウインナーを俺の目の前まで持ってきた。

 それを食べようとするとお箸を引っ込められた。


「まずはいただきますでしょ? ………うん、よろしい。はい、あーん」


 いただきますと言うと彼女は満足したのかウインナーを元の位置まで持ってきてくれた。

 うん、美味しい。


「じゃあ次はご飯だね、あーん」


 とまた箸を差し出してくれるがいつまで続けるのだろう?

 そう思いつつも、食べる。


「え、えーーと次は……っていつまでやればいいのかな?」


 と彼女も困った様な顔で聞いてきた。

 だからもう自分で食べれると俺は坂本さんに言った。


「もう大丈夫? うん、分かった」


 そう言うと、坂本さんは俺に弁当箱を渡して立ち上がった。


「あー! 授業の準備があるの忘れてた! お、オタク君はゆっくりしていていいからね! エリナさんは準備をしてくるからね! また後でね!」


 そう言って走って屋上から出て行ってしまった。


 俺は坂本さんからのあーんを思い出して恥ずかしくながら残りのご飯を平らげるのだった。

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