第6話

 中島が立て続けに襲われる事件があってから1週間後、中島は再びニカを呼び出し、ある青年の家へと向かっていた。


 青年の両親は青年に対して脅えきっており、随分ずいぶんと長い間、顔色をうかがうだけの関係が続いていたようだが、能力で操られているわけではないようだった。


 青年の両親とは話がついており、家の鍵も渡されているし、人質に取られないために両親は安全な場所に保護もされている。


 築年数はそれなりだろうが、この立派な一軒家に今は青年しかいない。中島とニカは青年が寝起きしている部屋のドアを開けると、青年はまだ寝ているようだった。


 部屋の中には青年のお気に入りなのであろうフィギュアやゲーム機で埋め尽くされている。自分を否定するものが何一つない空間でだけでしか活動しなくなるうちに、精神が歪になっていったのだろう。


 復讐屋と名乗り幾人もの人の人生を奪い、中島を殺そうと追い回した張本人が、今、中島の目の前で寝息を立てて寝ている。


 中島は青年の両手に手錠をかけた後、顔に拳を叩きつけた。


「起きろ」


 寝ている間に手錠をかけられた上に急に顔を殴られた青年は自分の身に何が起こっているのか理解していない。


「特殊犯罪対策課だ。復讐屋への関与、傷害、拉致監禁、強姦、殺人と殺人未遂他、複数の容疑でお前を逮捕する」

「急に何を…」

「黙れ。お前の人生は今日で終わる。お前の選択肢は2つ。この場で死ぬか、数時間後に死ぬか、それだけだ。お前が正規のルートで裁かれることはない。俺達の独断で行われ、俺達からクロだと思われれば死ぬ」

「そんな… もし誤認逮捕だったらどうする? 死刑なんかにして間違ったら単なる人殺しじゃないか!」

「お前、自分が操ってた人間をニカが何の躊躇ちゅうちょもなくぶった斬ったの見ただろ? 俺達はそれを許されてる。悪いな、世界がこんな有様だ。お前らにだけ有利な条件で戦ってちゃ、いつまでたってもお前らを裁けない。国もなりふり構っちゃいられないって判断したんだろうな、悪く思わないでくれよ」

「ふざ… ふざけんな!」

「野蛮な時代だ、お行儀よくしてちゃ、国も俺達も生きていけないんだよ」

「国がそんな事していいと思ってんのか! 卑怯…」

「お前が言うな」


 男は最期の言葉も残せぬまま、ニカに体を真っ二つに叩き斬られて絶命した。斬った瞬間、今度は血飛沫が自分にかからぬよう、ニカは中島を盾にして身を潜めている。それを見て中島は笑った。


「ねえ、何でこの人は、なかじや私を操ったりしなかったの?」

「さあね。催眠術とかと一緒で操るには相性が悪かったんじゃないか」


 ニカの質問に中島はとぼけた。今となっては真相は定かではないが、おそらく青年は自分よりも格上の適合者を操れない。ニカと中島は青年よりも遥かに格上であり、中島の能力は能力の無効化だ。効くはずがなく、中島の能力を知っているのはほんの一握りで、ニカはそれを知らされていないためか、中島のことを単なる無能力者のうだつの上がらない中年刑事と思ってバカにしている。


 中島は一仕事終えたと安心したのか胸ポケットからタバコを取り出し火をつけた。


「ねえ、タバコ吸うなら吸っていいかどうか聞いてよ」

「聞いたらダメって言うだろ?」

「そうだよ。しかもこんな灰皿も無い場所で。そのタバコの吸い殻どうするの? ポイ捨てしたらキレるからね」

「内藤巡査、携帯灰皿って知ってるか?」


 血まみれになった部屋の窓から朝日が差し込む。小鳥たちがさえずり、変容してしまった世界で世界は変わらぬ営みを始めた。





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 最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。


 本作は「ツクール×カクヨム ゲーム原案小説オーディション2022」に参加している作品で、今後、この世界観とキャラクターを基に長編に挑戦しようと思っている意欲作です。


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女子高生と日本刀。おやじとタバコと殺人犯。 望月俊太郎 @hikage_furan

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