第4話 腕がポンコツにつき

翌日、街の病院でレントゲンを撮ると、琴子さんの言う通り上腕骨にヒビが入っていた。


治るのに約1月、もしも力仕事するなら1月半はかかると言われた。


これでは当分ダイビングの手伝いはできそうもない。


代筆ができる授業を見計らって報告を兼ねて俺は荻島おきしまに渡ってみた。


荻島ダイビングセンターの施設に入ると『いらっしゃいませ、こんにちは』


あれ? どこかで聞いたことある声だ。


「あ、あんた、な、何でここにいるのよ」

と言ったのは早坂蒔絵だ!


顔を真っ赤っ赤にしていた。


「いや、それは俺のセリフだよ。なんで君がここにいるの? 」


「はっはっは。佑斗ひろと、腕吊りして難儀だな。やっぱりヒビ入ってたか? 」

「はい。軽くザックリと入ってましたよ」


そういうと蒔絵はシュンと申し訳なさそうな顔をしていた。


「それより驚いたろ? 蒔ちゃん。あの日の翌日、衣類を取りに来たんだけどな。その時『あの....私をここでしばらく手伝わせてください。あの人の腕治るまで....きっと私を守ったから.... 』て目をウルウルさせて言うもんだからな」


「オ、オーナー!! 」


「まぁ、そういうことだから佑斗ひろと、しばらくはお前の出番はないから、蒔ちゃんの為にもしっかり治しておけよ」


「オーナーっ!! 」


「あの..蒔絵ちゃん。ありがとう」

「べ、別にあんたの為じゃないわよ。私の気分がすっきりしなかっただけなんだから」


「あの..その『あんた』ってやめてほしいな。一応、俺、年上なんだけどなぁ.... 」

「あ、そう。じゃあ、いいわ。何て呼ばれたいの? 」


「(それ、俺から言わせるの....?)


「じゃ、『佑斗さん』とか『佑ちゃん』とか『松田さん』でもいいよ」

「わかった。じゃ『佑斗さん』ね。私のことは「ちゃん」付けでもいいわよ」


よかった。とりあえず某ロボットアニメのようにずっと『あんた』呼ばわりは免れた。しかし....この気の強さは何だろう....


しかし蒔絵はただ気だけが強いわけじゃなかった。


しっかりと仕事をやる責任感を持ち合わせていた。

今は受付のみだけどオーナーに言われたことはメモを取り、わからなければしっかりと質問をしていた。


仕事に関しては俺のアドバイスにもメモをとってくれた。




しかし、とは言っても新人。

ある日、客からのクレームが来てしまった。


「なんだよ! こんなに荒れてたんじゃ5人連れてなんて潜れねーじゃんか。初心者なんだぞ。荻島まで来て、もう変更もできねぇじゃんか! 」

「すいません。でもあの時は海、静かだったんです」


「言い訳すんじゃねぇよ。こっちは客連れてきてやってるんだぞ。それに海況の変わり具合くらい把握しておけよ! 素人かよ! ふざけんな! 」


「ご、ごめんな.. 」

「いいよ。もうそれ以上謝らなくて」


「なんだ、お前は」

「僕はスタッフの松田です。シズナダイブさんですよね? お互いお客様商売なんですからあまり声を荒げるのはやめましょう。それに今のこの季節、荻島が荒れやすいのもわかってらっしゃったはずでしょ? 荒れれば初心者の人にはエントリーしにくくなることも」


「っく.. だけどな! 」

「わかりました。僕がサポートします」


「佑斗さん!? 腕が..」

目を潤ませ蒔絵が心配そうな顔をしていた。


「佑ちゃん、あなたじゃ無理じゃない? 今度はポキンと折れちゃうよ」

「琴子さん! 」


「シズナダイブさん、私がお手伝いしますよ。それで文句ありませんよね」

「あ..ああ、琴子ちゃんが手伝ってくれるなら」


シズナダイブさんのゲストのフォローを琴子さんとオーナーで行い1本目を無事終えた。


結局、その日のダイビングは海況悪化の為、午前中でクローズとなった。


***


「私、みなさんに迷惑かけてしまって..すいません。きっと....私が悪かったんです」



責任を感じた蒔絵の瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうだった。


「そんな事ないよ。蒔ちゃんの責任じゃないよ。ね、オーナー」

「そうそう琴子ちゃんの言う通り」


「でも、私のせいでまた佑斗さんの腕に無理させてしまうところだった」


あぁ、俺の事気にしてくれていたんだ。


「大丈夫だよ。結局、この琴子さんが解決したじゃない! 佑ちゃんもこれ以上のポンコツにはなっていないし」


琴子さん、言い方..言い方


「ありがとうございます。佑斗さんがこれ以上ポンコツにならなくて.. よかった」



なんだ、これ。俺をポンコツ連呼で話が何となく終わっていく....



「ということで、蒔ちゃん、これからもよろしくお願いするよ」

「はい、わかりました」



「あ、あの、みなさん、お言葉ですが俺はそんなにポンコツではないです」


「 ..何を言ってるの? 佑斗さん。充分ポンコツでしょ!? 」


「 ....」


蒔絵の冷ややかな言葉のあと琴子さんとオーナーは急に2人でウミウシの話をし始めた。

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