最終話 エピローグ 

 桜の花の甘い香りがふんわりと漂い、地面には沢山の桜の花びらが散っている。


 風に乗って花びらは宙を舞い、時々、制服やカバンにぺたりと付く。


 そんなポカポカした春の陽気の中、俺は三年次へと進級した。


 生徒会活動も相変わらず忙しいけど、スクールポリスを配置とまではいかないまでも、警察OBの見回りの回数を増やしてもらったり、スクールカウンセラーの人数を増やすなど、俺が目指す方向「イジメのない学校」へと少しだけ進歩していた。


 一年の頃に俺をイジメていた城南はその後、自分のグループが崩壊しただけでなくスクールカースト外へとおいやられてしまっていた。そして、そうやって学校に居辛くなったかことが原因なのか、他校へ転校してしまっていた。


 確かに俺は一年の頃に城南にイジメられていたはずなんだけど、いつの間にか俺はイジメられなくなっていって、城南もスクールカーストトップのメンバーのリーダーのような感じだったはずなのに、いつの間にかそうではなくなってしまっていた。


 よく分からないけど、まあ転校してしまった自分をイジメていた奴のことなんてどうだっていいか。


 俺は今、とても楽しい学校生活を送ることが出来ている。


×××


「旧校舎、取り壊されるんだってさ」


 ホールムール前、そう柴田が俺に話しかけてきた。


 そう言えば、一年の頃には昼ご飯を旧校舎の屋上で食べていたっけな。

 思い出したくもない過去ではある。


「まあ、俺はあそこにあまり良い思い出が無いから、取り壊されても何も思わないけどな」


 俺はそう答えた。


「なになにー? 旧校舎に良い思い出も悪い思い出も普通の人はないと思うんだけどー?」


 香椎が興味本位で俺に話しかけてきた。


「色々あったんだよ。思い出したくないって言ってんだから深堀りするなよ」


 俺は苦笑しながら香椎をあしらった。


 でも何故だろう、旧校舎には嫌な思い出しかないはずなのに、取り壊される話を聞いた時、どこか心の中に寂しさを感じた自分がいる。


 辛い思い出のはずなのに、旧校舎の話が出ると何故か楽しさや、心の中でパチンと赤い実が弾けたような、そんな気持ちが込み上げてきた。


 そういえば母さんの持っている小説「赤い実はじけた」って作品の中に、そういう表現があったな。


それは多分、初恋の瞬間を表現したものだと思っているんだけど、旧校舎の話で俺の心の中に初恋感情が芽生えるなんていうことは意味が分からないから、きっと気のせいだろう。


 そうだ。変わったことと言えば、俺は今まで全く興味のなかった「紅茶」に凝るようになった。


 ネット通販なんかでは様々な珍しい紅茶の茶葉が販売されていて、そういう茶葉のティーバッグを少しずつ買い集めるようになった。


 たまたま、家には母さんが昔使っていたというティーセットが放置されていて、それを俺が引き継ぐ形で今は使っている。とはいっても、茶葉から紅茶を入れるわけじゃなく、ティーバッグなんだけど。


 高校生になってアルバイトが出来るようになったら、ちゃんと茶葉から紅茶を入れて楽しんでみたいな。


「そういえばさ、小倉って犬好きなの? いつもそのキーホルダーを持ち歩いてるけど」


 そう言って柴田は、俺のキーホルダーを指さす。


 俺の家の鍵のキーホルダーには、鼻の大きな犬のマスコットがあしらわれている。


「んー。別に犬でも猫でも動物なら何でも好きなんだけど、何故かこの鼻がデカい犬を気に入ってしまってなー。ちなみに、家には同じバージョンのぬいぐるみもある」

「それ、ウケるね」


 柴田はそう言って笑った。いや、別にウケはしないだろ。


「はいはーい! 私も透も猫派でーす!」


 香椎は何故か自分と柴田の動物の趣味を言い出した。いや、聞いてねえから。相変わらず仲の良いカップルですね。


 まあでも、こいつらがいるから学校が楽しい訳であって、一年の頃には誰も友達がいなかったんだ。こんなバカ話が出来る友人が出来ただけでも、俺は幸せ者だ。


 それはそうと、俺は相変わらず生徒会長としての活動が忙しい。でも、もう三年だから、秋には次の世代へと引綱がければならない。


 俺の考えた、スクールポリスや大規模カウンセリングルーム構想について、次の生徒会長が引き継いでくれるかは分からないけど、引き継いでくれる人間が生徒会長をやってくれることを信じるしかない。


 俺が生徒会長になったことがきっかけなのかは分からないけど、この学校でのイジメも以前よりは減ったような気はする。実態は分からないけど、少なくとも昔のような仄暗い雰囲気はだいぶ解消され、少し明るい学校になったように感じている。


「そういえば今日って転校生が来るらしいんだよな。女子かな? 男子かな?」

「え? そうなの? 私、知らなかったー」


 柴田と香椎がそんな話をし始めた。


 そういえばそうだったな。三年次にこの学校に転校してくるなんて珍しい。でも、昔のような雰囲気じゃなくなってきたから転校生を歓迎できる。昔だったら「こんな学校に来るのは絶対にやめておけ」と、俺は思っただろうからな。


×××


「転校生を紹介します」


 ホームルームがはじまり、担任の山下がクラス全員に向けてそう言った。そう、また俺のクラスの担任は二年の時と同じ、山下だ。


 ざわざわと教室内はざわついている。


「男子かな? 女子かな?」


 そんな会話が教室内では交わされている。柴田だけじゃなくて、他の生徒もそこ気になってるんだな。


 そして、がらがらと教室の扉を開ける音がした。それと同時にその転校生がクラスに入ってきた。


 女子だ。


黒髪ロングヘアで色白。若干釣り目がちではあるが目はパッチリ二重で大きい。

かなりの美少女だ。

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