火種


 考古学者の影響によって氷銃を持つことを前提とした格闘術が生まれた。そして新たな格闘術が誕生すればそれを生業とする家が生まれるのもまた当然の流れだった。


 漢太の実家である剛田の家もその流れを汲んだ家の一つであり、考古学者向けの格闘術の完成に一役買ったことで正式にその格闘術を教えさらに研鑽を積むことを許されている。


 しかし元は日本で長く続いてきた武術の家系であり、教えている技術こそ最新を行くがその思考や方針は古くから継承されてきたまま。その凝り固まった古臭い考え方に漢太は子供の頃から嫌悪感を抱いていた。


 その強い感情は漢太が物心ついた頃には胸中に秘めていたものだったが、十年以上の間それを公に表に出すこともなく剛田の家の男子として完璧な立ち振る舞いに徹していた。


 家のため、家族のため、長男としての責任感、自分の意見を言えず押し殺してきたから、どれも漢太が優秀を演じ続けた理由にはならない。


 それでも彼が演技をしていたのは、両親に憧れ考古学者を目指す同い年の少年、たった一人の友人と共にいるため。


 きっかけはもう当の本人たちでもよく覚えていない。ただ道場で出会った唯一の同級生同士が仲良くなることは自然な流れで、お互いに本音を話せる仲になるのに時間はそう掛からなかった。



 ……そこまでは少し珍しい出会いと友情で済んだはずだった。



 厳しく息苦しい環境の中で出会った、人見知りではない頃の蓮陽に対して漢太が抱いたのは友情という蓑に隠れた依存。

 学校で、道場で、蓮陽といる時だけ本当の自分でいられる。その時間を守るためなら手段を問わない。実際にそれができてしまうスペックがあり、蓮陽が呪いを拾ってきたことをきっかけにそれを実行する大義名分が生まれてからは、さらにその執着心は大きくなり続けてきた。


 そして考校への入学条件を満たしたその年、漢太は自身の呪いを理由に渋っていた蓮陽を、自分が家から逃げ出したいというそれらしい理由で考校へと連れ出した。


 漢太自身が堅苦しい家から逃げ出したい気持ちも嘘ではなかったが、そんな些細なことよりも蓮陽の小さな頃から抱き続けた夢を叶えるためにここへ引っ張り出したのだ。



 道のりを邪魔するあらゆるモノから蓮陽を守り抜けるという絶対的な自信と共に……。

 

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