第6話 仲間と

 「あぁ・・・思い出したよ。皆んなの事。」


 カルセドの腕に抱かれて、うっすらと目を開けて、微笑む。


 「姫様あまり喋らないほうが宜しいかと。」


 「姫!何故ご自分の治癒は行わないのですか?」


 「魔力切れですよ。」


 「そうじゃ無くて、何故自分を先に治療しないのですか?」


 「だって、貴方達のほうが沢山我慢して来たんだから、先に治すでしょう。大丈夫、死なないから。」あどけない表情でへらっと笑う。


 「改めて、どちらに参りますか?」

カルセドは、冷静だが口元が柔らかく緩んでいる。


 「じゃ、シーライオスに連れて行って。戻るって約束してるんだ。」


 「しかしながら、追手が差し向けられる前に、早くアンブロシアを離れる必要もありますが、姫様も魔力が残っていないんですよね。遠隔転移が使えるのは姫様だけですし、通常の街道を通行するのは危険ですから、姫様の魔力が回復するまでは、町に潜伏するしかないですね。」


 メルティアの宿泊していた宿屋に全員宿泊することにした。


 メルティアのケガは結構ひどかったため、女将が気を使って大きな部屋を一つ用意してくれた。助けられた兄という設定は、シェスターの役目になった。


 「あんたが直接助け出してくるなんて思わなかったよ。ま、仕方ないから匿ってやるさ。」


 「ありがとうございます。この怪我がが落ち着くまでお世話になります。」


 大きな部屋は生活環境は全て備えており、厨房・風呂トイレまでついていた。


 「空間収納に食料や寝具も入ってるから自由に使ってね。」横たわるメルティアは支持を出す。都合上食堂は使えないのだ。部屋ですべてを済ませなければいけない。


 傷の状態も悪いだけに魔力は回復が非常に遅い。


 「魔力はたまりしだい遠隔転移を実行しましょう。」


 「姫の治癒はどうされるのですか?」


 「もう少し我慢するわ・・・」





 

 アンブロシア聖都アルセンシア城では、今後の方針を修正検討されていた。


 ロゼルの東の砦で、捕まえた皇女配下の魔道士や戦士を餌にメルティアをおびき出すための罠を張ったつもりの教皇であったが、教皇配下の魔導士はあっさりとメルティアに敗北し、討伐に失敗してしまった。


 「まさか、戦巧者であるデトルタスラインが、倒されるとはな。勝つ為には、手段を選ばない奴が、負けるとなるとメルティアに対する評価を改めざるを得ないな。」


 「まずいことに、身柄確保していたあの強化人間達も、生存して救出されたのでは、皇女にかなりの力を持たせてしまったことになる。」


 「早急に追撃しないと、体制を整えさせると手がつけられませんぞ。」


 「うむ。追撃を許可する。特殊魔道士団と、将軍ルメイラと魔将ゲイルに、指揮をとらせよ。」


 最強戦力の投入に、メルティア討伐が本気である事が伺えるのだ。






 なかなか、魔力が回復せず動けないメルティアは、仲間達としばしの語らいの時間を紡ぐ。


 「はい。あの時は追撃がはげしくて僭越ながら、私が姫様に変装してシェスターと一緒に囮になったんです。」アルフィンが自慢げにはなす。


 「敵の目が離れた瞬間に、私が姫様を外套に隠して別経路に逃げたのですが、まさか剣王セルレインと神速の魔剣士ティーラに待ち伏せされているとは、不覚でした。」カルセドは、頭を掻いている。


 「アンブロシアの最強戦士達を相手に私が生き残れたのは、皆んなのお陰です。ありがとう。」


 「今回は、まさかセリスがたった一人で助けに来てくれるなんて思わなかったから、私達も、とても嬉しかったんだよ。」


 「記憶が無かったんだけど、寂しくなったのかな・・・何かまた皆んなに会える様な気がして。探しにきたんだよ。」


 「結局は、私達は負けちゃったんだけど、シェスターは一人で魔道士3部隊と、あの雷魔法のリンダ導師長と、風魔法のケルセラ導師長を戦闘不能にしてたし。私だって炎魔法のボルカイト導師長を倒したんだよ。」


 「まぁ、可哀想だったのは、カルセドだったんだけどね。」


 「すまない、剣王相手に手一杯だった・・・。たすかったのは、姫様がご自分でティーラを倒して下さったので何とか皆んな生きてここにいられるのです。」


 「いっぱい酷い目に逢わせてごめんね。だから、今回は少しだけ恩返し・・・戻ったら、ゆっくり休ませてあげるからね。」


 「まずは、姫が先に身体を治すのが先です。身体ぼろぼろですよ。」


 シェスターは、呆れた様に『ペンレスヒール(鎮痛優先の治癒魔法)』をメルティアにかける。


 「ふぅ・・・」メルティアは、少しだけ楽そうになると、そのまま寝てしまった。ずっと我慢しているのだ。


 《どどおぉぉぉん》


 宿の周囲に張り巡らした結界に、攻撃が着弾した。もう見つかってしまったのだ。


 宿の女将には、迷惑かけられない。


 すぐに荷物をまとめて転移魔法で外に出る。


 メルティアを抱き抱えた、カルセドめがけて魔法攻撃が集中する。


 《ごおおぉぉぉっ》


 巨大な魔法エネルギーが周囲を焼くがカルセドは、動じない。


 「ふんっ!」


 自分の身長の1.5倍ある巨大な、大剣を一閃!剣圧が空気の刃となり魔道士部隊を薙ぎ払う。


 《どごごごおおおぉぉぉん》


 魔道士達は、逃げ惑う。


 正面に聖剣を持つ女剣帝、ルメイラ将軍が立ちはだかる。


 後ろには、魔将と呼ばれた、黒魔導士ゲイルと若き天才賢者シェスターが対峙していた。


 アルフィンは、メルティアを寝かせると周囲に強固な結界をつくりだす。


 戦闘準備は整ったのだ。







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