第5話 東の砦

 翌朝、魔道士達が収監されている東の砦を探し町へ出る。


 「この街に、冒険者ギルドって有りますか?」


 まずは、ギルドに登録してから砦の情報を集めた方が、怪しくないと考えたのだ。


 ギルドでは、名前を変えて登録して情報を集める予定なのだ。


 問題は、ステータスチェックである。


 またきっと騒ぎになるんだろう。


 諦めつつカウンターに進むと登録と作業が始まる。


 カウンターの若い男性が少しだけ驚きの表情を見せたが、何もなく証明書を発行してくれた。あまり、個人情報には介入しないようだ。


 名前は、『リナ』と名乗る事にした。





 東の砦の情報は、程なく集まった。


 本日深夜に砦に侵入する事にした。


 砦周囲は、見張りも少なく鎮まりかえっている。


 メルティアは、砦の裏にまわると、空間転移で侵入する。


 『索敵!』砦内の人員配置を確認した。


 最上階には、動かない人の気配が数名・・・


 「ここですね。仲間は・・・」


 『空間転移!』入れない。


 なにかの結界に邪魔されているようだ。


 手前の階に転移して階段で最上階にたどり着いた。


 見張りはいない、結界に絶対の自信があるのだろう。


 最上階のドアを前にして、両手をかざす。


 『ホーリーディスペル!』


 解呪の最強魔法である。


 暫く結界は解除出来ない。メルティアは、出力を上げていく。


 《パキン!》


 音をたてて結界は砕け散った。


 中に入って周囲を確認すると鎖で繋がれた3人の囚人がみえる。


 一人は体格の良い男性で両手足を切断された状態で転がっている。


 もう一人の男性は、顔をぐしゃぐしゃにされしゃべる事も水を飲むことすらできない。


 一人の女性は、腹部を引き裂かれ内臓が外に飛び出している。


 ボロキレの様な少女が、何とか口を開く。


 「セリスさま、、、罠です。すぐにお逃げ下さい、、、」


 メルティアの本名は、メルティア・セリス・カルバリオン。セリスは、近い者だけが呼び名として使う幼称である。


 「あなたは、私を知っているの?私の同志の方ですか?」


 「あぁ記憶が無いのですね。ならば我らの事は忘れて下さい。にげて・・・」


 少女から、なんともいえない、懐かしさを感じ、同時にいい知らない怒りが湧きあがる。


 「やはり生きていましたな。今度こそ連れて帰りますぞ!もっとも無理なら殺してもいいそうですが。」


 黒い魔法着を纏った背の高い魔道士が入ってくる。


 「ハマりましたな。ここで戦えば此奴らもただでは、すまないですからな。ああ、失礼いたしました、私は現在の首席魔導士のデトルタスラインと申します。」


 「汚いやつ・・・でも残念ね。今はこんなこともできるんだよ。」


 『ディメンションフィールド!』


 デトルタスとメルティアのみを別空間に隔離した。


 「驚きましたな、この魔法はアンブロシアには存在しません。いったい何処でこんな高度な魔法を覚えたのですかな?」


 「答える必要はありません。死んでください。」


 『ホワイトセイバー!!』


 《キィィィン》


 マジックシールドで回避する。


 『プラズマ・ショック・エリアス』


 『ホーリーシールド!』


 ともに第一撃は回避する。


 「相変わらず綺麗な魔法を使いますな。では、これはどうですかな?」


 『カオス・ホールディングス!』


 デトルタスの暗黒魔法はシールド内の狭い空間内に突然に割って入り込み、現れた悪魔の手は、メルティアの身体を掴む

 

 「きゃあぁぁぁっ痛い痛いうっぅぅ」


 「ほら潰しなさい。」


 《グキャッ》


 「いやあぁぁっ」


 メルティアの身体は握りつぶされ、大量の吐血で呼吸もできない。


 崩れ落ちる。


 『フリーズインパクト』


 《キィィッ》


 デトルタスを一瞬にして凍らせる。


 顔をつぶされた魔導士が空間を切り裂いて魔法介入する。


 「姫に手をだすな!!」


 「驚きました、空間にトンネルを作って魔法介入してくるとは・・・」


 体の前面を吐血で血まみれにしながら、座り込んでいるメルティアが呟く


 「いいわ、貴方を飲み込んであげる。」


 何とか体制を整えたメルティアは重い空気を切り裂いて固有魔法を放つ。


 『オメガ・フォトン・バースト!!』


 メルティアの手の中で燈った光球が一気に拡大して、全てを飲み込んでいく。


 「むむっ」マジックシールドで防ぐ。


 「こ、これはなかなか・・・ぐぐっ、うっうあああぁぁぁぁぁっ」


 マジックシールドが弾き飛ばされ、光がデトルタスを飲み込んでいく。


 しばらくして光が消えていくとそこにはもうデトルタスは存在しない。


 光の粒子に飲み込まれたのだ。


 異空間は消え、そこには肋骨がすべて骨折して肺に突き刺さる重症を負った体が座り込んでいる。


 「今行きます、もう大丈夫ですからね。」


 自らもぼろぼろになった身体を引きずって、助けてくれた顔をつぶされた男性に近づき呟く。


 「シェスター・・・ありがとう。思い出したよ、君の忠誠・・・」


 ふと出た名前は蘇った記憶の一部である。


 『インフィニティ・ヒール』


 最強治癒魔法は綺麗に綺麗に男性魔導士を治していく。彼の容姿は、一目惚れしそうなほどの超美形だった。彼もまた魔法強化適合者で賢者の称号を受けた天才魔道士だ。


 「・・・アルフィン・・・私の唯一の親友、また会えてうれしいよ。」


 『インフィニティ・ヒール』


 ボロキレの少女も綺麗に治癒していく。彼女は、メルティアと同じ魔法強化に成功した生き残りで、似た境遇で生きてきた。これもまた可愛らしい少女なのだ。


 最後は、手足を切断された戦士に近づき耳元でささやく、「迎えに来たよ、また私を守って!聖騎士カルセド」


 『インフィニティヒール』

 『パーフェクトリプロダクション』


 欠損した手足は再生して、全身は綺麗に治っていく。彼は、強力な魔法耐性を持った、メルティア専属騎士で魔法攻撃を全て無効にする力を持った最強の剣帝である。


 この時点で完全に魔力を使い切るとメルティアは意識を失いカルセドの胸に倒れこんだ。


 自分を治す余力はもうなかったのだ。

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