最終話 そして人類の歴史が始まる

 かくして、スラまるは最後の因子『性別』を最後の人間であるソラル自身から教わり、見事人間へとなった。


 もちろん他に男も女もいない。つまりソロンとスラまるはそのまま夫婦となり、無限の時間を生きる元勇者と、元魔物の人間が新たな人類の祖となった。


 ふと、因子が不十分な時にスラまるを分裂させて増やしておけばよかったかもしれないとソロンは思ったが、小さなベッドに寝かされた新しい命を見てると、そんな考えも失せた。


 そのベッドの脇に座っていたセラが、ようやく自分の役割から解放される喜びとともにソロンに話しかけた。


「私の仕事もここまでね。さあ、ここからが大変だから。しっかりしてね『お父さま』!」


「……なあ、セラ。もし俺が最初の選択で捕獲を選んでたら今頃どうなっていただろうか」


「なんだ、そんなことを考えていたのか?」


 近くで聞いていたフィルフレッドが声をかけてきた。


「ああ。捕獲か懐柔かで俺は懐柔を選んだんだが」


「多分正解だ。もし捕獲を選んでいたら、お前はもしかしたら新しい魔王になっていたかもしれんぞ」


「え、なに、どういうこと?」


「人間の因子っていうのは魔物にとって劣性遺伝子のようなものでな。それが出てくるまで交配を続けるってことは相当量の時間がかかる」


「ま、まあそうだろうな」


 ソロンが話に夢中なのを確認したセラが、そっとベッドから降りる。


「当然因子を持たずに生まれる魔物は、破棄されるか別の場所に移されるだろう。因子を持つ可能性を持ちながら」


「うーん、俺なら移すかな」


「もしそれらが野生に帰って、あるいは死骸から自然界濃縮されて、お前の知らないところで人間が誕生したら、この世界をどう思うだろうか?」


「ちょ、ちょっと待て! そんなことあるわけが……」


「まあ、可能性の話だ。あるかどうかはわからん。そもそも、知識の精霊はこの次元の知的生命体を使って実験をしたがるものが多い。気を付けたほうがいいぞ」


 そこまで言われてソロンはセラに視線を送った。


 しかし、もうそこには誰もいなかった。


「……一応、人類の再誕に力を貸してくれたんだ。それ以上は考えないようにするか」




 数十年後、この寂れた場所が人であふれるほどの大きな街になった。


 創始者は敬意を込めて『セラ』と名前を付けたという。




                            ― 完 ―

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勇者、平和になった世界で滅んだ人類を復活させる 国見 紀行 @nori_kunimi

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