魔法使いの家

夏生

出会い

 もう、いやだな。

 なんぼくきてるんだろう。きでまれてきたわけでもいのに。

 ぼくきる理由りゆうってなんだろう。どうしてぼくはこんなことになっちゃったんだろう。

 すると、どこかでポキッとなにかのれたおとがした。

 もう、なにもかもをあきらめそうになった。

 そんなときに、ぼくまえちいさないえあらわれた。

 それは、ちいさいがおままごとに使つかうような、ぼくかがんでギリギリはいれるくらいのちいさなログハウスのようないえだった。

 そのいえにつづくみちにはもう時期じきわってるはずのバラがほこり、不思議ふしぎ魅力みりょくかんじる。

 ぼくまれるようにそのいえちかづいた。

 ちかづいてみると、意外いがいたか足元あしもとだいのようなしろだいがあった。

 それにって、まずはドアのひねってみるがかたくてビクともしない。かざりでいてるだけなのかもしれない。

 つぎに、ドアのうえにある、ガラスもってない窓枠まどわくからなかのぞいてみる。すると、まれてわきしたまでなかはいった。

 ぼくにはもう、ひといえ勝手かってはいっちゃいけないよ、とまりをまもっていられる余裕よゆうくなるぐらいにこころ限界げんかいたっしていたんだな、とぼくはどこか客観的きゃっかんてき自分じぶんていることにがついた。

 自分じぶんのことなのに、自分じぶんこころもわからなかったんだ。

 ぼくってダメだな。

 またダメだ。どうしてぼくはネガティブな方向ほうこうはしってしまうんだろう。

 あぁ、これじゃあ無限むげんループだ。やめよ。

 そんなことをかんがえているうちに、ぼくあたまがギリギリはいるかはいらないかぐらいの窓枠まどわくなかに、あっというほかはいりきれてなかったからだも、ちょっとしただけではいった。

 からだすべなかはいりきり、まわりを見回みまわしてみると、なか洋風ようふうのお屋敷やしきのようなつくりで、あのちいさいログハウスからは想像そうぞうできないほどひろ玄関げんかんホールのようなところぼくっていた。

 見上みあげてみると、ぼくはいってきたであろう窓枠まどわくぼく頭上ずじょうはるうえにデカデカと存在そんざいしていた。

 な、なにこれ。どうゆうこと?

 このおおきくなったのか、ぼくちいさくなったのか、どっちだ?

 まぁ、どっちでもいいけど。

 一通ひととおいま状況じょうきょう確認かくにんえたころ不意ふいあたまうえほうから、「いらっしゃい」と、こえがかかった。

 それは、やさししそうなおばぁさんで、不思議ふしぎ雰囲気ふんいきつつまれていた。たとえるなら魔法使まほうつかい。

 く、あたたかいこえだった。ふわっとからだつつこんんでくれる毛布もうふのようだ。

 だからだろうか。おもわず、「ただいま」とってしまっていた。

「おかえりなさい。」

 と、おばぁさんもかえしてくれた。

 このやりりをしたのは本当ほんとうひさしぶりで、うれしくて、がつくとなみだ一筋頬ひとすじほおをつたった。

「あらあら、大丈夫だいじょうぶつらかったわね。でも、ここにたからには大丈夫だいじょうぶ。きっとこころきずえるわ。」

 なぜだろう。

 このひと大丈夫だいじょうぶわれると、本当ほんとう大丈夫だいじょうぶがしてきた。

 まだ、今日初きょうはじめてったばかりなのに、これまでにやすらぎをかんじている。

 まるでくもうえで、太陽浴たいようあびて、お昼寝ひるねをしているような気分きぶんだった。

 まぁ、くもうえでお昼寝ひるねなんてしたこといけどね。

「だって、魔法使まほうつかいがえらんでくれたんだから。」

 この言葉ことばに、さっきまでほのぼの空想くうそうしていたあたま反応はんのういていけず、「………まほーつかい?」という、なんとも間抜まぬけなこえた。

 っていうか、魔法使まほうつかいってあのおとぎばなしてくるやつだよね。

 普通ふつうだったらしんじがたいだろう。

 でも、このいえも、このひとも、全部魔法使ぜんぶまほうつかいとわれても納得なっとくできるがする。

 それは、ぼく勝手かってなイメージだけどね。

「このいえはね魔法使まほうつかいのいえって、こまってるひとつけるとそのひとまえにだけあらわれるようになるのよ。いまだい魔法使まほうつかいはわたしだけど、いままでの魔法使まほうつかたち沢山たくさんここにるのよ。にはえないけどね。ほら、天井てんじょうてごらんなさい。」

 そうわれて、ぼく天井てんじょう見上ひあげた。

 そうやっててみると、不思議ふしぎなことにがついた。

電気無でんきない。あかるい。」

 あ、やってしまった。またわらわれるかな。

 こんな、幼稚園児ようちえんじみたいなしゃべかた、いや、それ以下いかか。

 なおしたいけど、大事だいじなときに失敗しっぱいする。

 そんな自分じぶん嫌気いやけがさす。

 またどうせ、このひとにもきらわれて、へんられるんだろうな。

 もしかしたらぼく、ここからされるかな。

 このひとだけにはきらわれたくなかったのに───。

 あれ?いつもならこんなことおもわないのに。あぁそっか、またダメだったんだ、でわらせられるのに。

 どうしてかな?ここにてから、いつもとちがうことがたくさんきる。

 でもわるくないとおもう。むしろ、心地ここちよくかんじる。

 ぼく、どうしちゃったんだろう。

 へんだな。ぼくも、このいえも、このおばぁさんも。

そんなことをかんがえていて、ボーッとしていたぼくに、「正解せいかいよ。よくかったわね。このかりは全部歴代ぜんぶれきだい魔法使まほうつかたちひかりなのよ。だから、電気でんきがなくてもこのいえかりにちているの。」と、おばぁさんは上手うまえないぼく言葉ことばもちゃんといてくれいて、親切しんせつ返事へんじかえしてくれた、という感動かんどうあたえてくれた。

 このいえでは、ぼくがいくらのぞんでもられなかったものが、たくさんたくさんもらえる。

 だからか、いつもではありえないこの光景こうけいにもさほどおどろきもせず、本当ほんとう家族かぞく普通ふつうらしていれたならこれが普通ふつうだったのかな、とおもしたくもなかった家族かぞくおもいをせられる余裕よゆうがあった。

 ぼくは、そんな自分じぶん一番驚いちばんおどろいた。

 でも、魔法使まほうつかいとか、いろんな非日常ひにちじょうつつまれているいまだからこそきるんじゃないかと、ぼくおもった。



 これが、ぼく魔法使まほうつかいとの最初さいしょ出会であいだった。


             ◈つづく◈

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