一、気になる

「今日は朝まで寝かさないよっ、いっぱい食べてもらうからねっ」

落語会である地方に伺った時に迎えに来てくれた主催者の方が開口一番言いました。


お酒の好きな方だから朝まで付き合えってことなのかな、落語が終わっちゃえば

ホテルで寝るだけ、おもてなしの気持ちありがたくうけるつもりでした。

ところが落語会がわり打ち上げが終わって、次はどこの居酒屋かなと思っていたら、

「今日はお疲れ様、ホテルまで送るから」とあっさり。

ホテルの前まで主催者とその奥様が送ってくれました。


主催者の方が「ほたるさん(二ツ目の時の名前)、心霊現象とか祟り好きだよね??」

「ちょっとやめときなさいよ、気にするから」と奥様。


「えっ?なんですか?妖怪は好きですけど、本気で怖いのは苦手なんですけど…」


「ええ?そうなのゲゲゲの鬼太郎好きって言ってたからさぁ、まあ同じようなもんでしょ」 と主催者の方。


奥様は「やめなさいよ気にするから、本当に本当に気にしないでね、ほたるさんっ」


私は、いやいや、そこまで言われるとかえって気になりますよと言うんですが、

奥様は相変わらず大丈夫、大丈夫、気にしなきゃ大丈夫、何でもないからの一点張り。


気になりますから教えてくだいって強く聞いたら奥様はまあまあ噂だからねと前置きしつつ教えてくれました。

「このホテルは戦国時代の侍の幽霊が出る、祟りだって噂なのよ」

まあ聞かなかった事にして気にしないでねぇ、おやすみなさいって二人で私を置いて帰っちゃいました…


もう気になって気になって、怖くて仕方がない。

ホテルの部屋も変えることができないので、とりあえず近くのコンビニに塩を

買いに行ったけど売ってない、地方なのでスーパーもコンビニも他にない。

そうだ塩が魔除けなんだから塩っけのあるもの、醤油を買おう!

ところが減塩醤油しか売ってない。

塩っけが足りないといけないので減塩醤油を4本買ってベットの四隅に立てました。

それでも気になって気になって、朝までまったく眠れませんでした。


次の日に主催者の方がホテルに迎えに来てくれて「どうゆっくり眠れた?」

なんて呑気に聞いてくるので、私は「昨日あんなこと言われてちっとも眠れませんでした」


主催者の方ニヤニヤしながら言ってました「だから言ったよね、朝まで寝かさないっ」って…


なるほど“いっぱい食わされた”。

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