第27話 俺らは、今後のことについて話すことにした
「では、さっそく、話を始めるからな」
落ち着き払った態度を見せた
先輩の、その発言と共に、話が切り出されたのだ。
今、三人は、建物の二階の休憩室に、先輩といる。
湊、弓弦葉、紬は、その順に横並びに正座し、真剣な顔つきな世那先輩と向き合っていた。
「それで、楓音のことについてだけど。湊は、どこまで知ってるんだ? 昨日、会ってきたんだろ?」
「はい……」
湊は思う。
ここで、楓音がバイトをしていることを話してもいいのだろうかと――
そして、湊は顔を上げ、伺う視線を先輩に向けた。
「なんだ? 言いたくないのか?」
「そういうわけでは……逆に、世那先輩は、どこまで知っているのでしょうか?」
「私は楓音がバイトをしていることも、芸能活動をしていることも知ってたさ」
「え? し、知ってたんですか?」
「ああ、私は一応、部長なんだ。大体のことは把握している」
「そうなんですね……」
湊はホッとしたように胸を撫で下ろす。
自分だけが把握しているだけではなく、共有できる先輩がいたと思うと、心が楽になり、打ち明けやすくなかった気がした。
知っているのならば、話が滞ることなく進んで行きそうである。
「逆に私が知らないとでも?」
「そんなことは……でも、知ってるなら、なぜ、何も言わなかったんですか?」
湊が問う。
すると――
「私も知りませんでした」
「私も……というか、なんで相談しなかったんですかね、楓音先輩は」
近くにいる
「それはな、楓音から言われてたんだ。約束っていうか。あまり、言ってほしくないって。それに、楓音の家には色々な事情があるらしくてな。でも、学校内でも、楓音の変な噂が広がっているみたいだし。そろそろ、言おうと思ってさ。口封じしていることを言うのは、少々後ろめたいけどな」
世那先輩は気まずそうな表情を浮かべ、淡々とした口調で話す。
本来であれば、ずっと隠し通そうとしていたのだろう。
だが、しかし、現状、校内での変な噂が出回り続けているのだ。
先輩は部活のメンバーと情報を共有したいがために、今のタイミングで本当のことを話そうと思ったのかもしれない。
「それは、俺も知ってます。学校内でも、色々問題になってますし。だから昨日、少し聞きました。家庭の事情なんですよね?」
「ああ。湊は直接聞いたんだな」
「はい……」
「楓音の奴、言いたくないとか言ってたのに。なんで、湊に打ち明けたんだろうな」
「それは、俺もわからないですけど」
「まあ、いいや、ここまできたら、素直に話すしかないよな」
正座をしていた世那先輩は足元を崩し、胡坐をかいだ。
「君らも足を崩してもいいけど」
「はい……」
「私はこのままで」
「私も……でも、その前に、少し飲み物でも飲みませんか? 私、買ってきますよ」
紬は急に場違いな発言をする。
「真面目な話になりそうなので……この頃、暑くなってきましたし、いいですかね?」
紬は膝立ちになり、世那先輩の意見を伺っていた。
「まあ、別にいいけど。早く戻って来いよ」
「はい、わかってます。何がいいですか?」
「それは紬に任せる」
「わかりました。では、行ってきますね」
紬は軽快な足取りで、この場を立ち去って行った。
紬の本当の目的は、飲み物を買ってくることではないと思う。
多分、飲み物は買ってくるだろうが、この気まずい空気感から、一旦離脱したかったかもしれない。
その二十畳ほどの休憩室には、三人が残ったのである。
紬の発言で気まずい空気感になったが、湊は先輩の様子を伺うのだった。
「紬が少しの間、別のところに行っているし。ちょうどいいし、湊と少し話したいことがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
「湊はランニング部に入って、なんか、変化はあったか?」
「なぜ、そんなことを?」
「一応、湊は強制的な感じに入部することになったし。そこらへん、どう思っているのか、ちょっと知りたくてさ」
「今更ですね」
「まあ、いいだろ。こんな時じゃないと、話す機会とかないしさ」
「そうですね……」
湊は少々考え込んでいた。
ランニング部に所属してから二週間程度。
爆乳な彼女らと合法的に関われていることが、一番の利点ではある。
けど、やることが思いっきり増えたことで、大変ではあるが、日々のパッとしない生活から解放された感じだ。
湊は顔を上げ、世那先輩の目を見た。
「よかったとは思います」
「そうか、だったらいいけどさ。それと、私らの部活を担当している先生が来月から復帰できるってことでさ。湊はどうする? このまま部活を続けるか?」
「来月から? では、俺は不要ってこと?」
「まあ、そうなるな。それと、十分なほど、私らの助けにもなってくれたし。あの着替えの件も無しってことで、もういいからさ」
「え? では、誰にもバラさないってことですか?」
世那先輩の表情は真面目である。
嘘を言っているような感じではない。
「というか、元からバラすつもりもなかったしな。私はただ、先生が他のことで忙しくなるから、その代わりを探していてさ。ちょうどいいところに湊が来たからさ。湊でいいかなって」
「では、俺以外の人だったら、別の人になっていたってことですか?」
湊が恐る恐る聞いた。
「そ、それだけじゃないよ」
隣にいた弓弦葉がゆっくりと口を動かす。
先ほどまで大人しくしていた彼女は、左隣にいる湊へと視線を向けていた。
何を言われるのか、湊はドキッとする。
この頃、殆ど会話していなかった間柄。
湊は少々戸惑いがちな表情を浮かべながら、幼馴染の様子を伺った。
「私が最初に推薦したの。湊君なら、なんでもしてくれるからって。それで、先生に協力してもらって」
「え? そうなのか?」
湊は素っ頓狂な声を出す。
予想外だった。
幼馴染は意外と、以前と同様に会話してくれたのだ。
ホッとした半面、湊は初めて真実に触れた瞬間だった。
そういう理由があったのかと思う。
「でも、迷惑だった?」
「いや、そんなことはないけど」
湊は右にいる幼馴染を見やった。彼女は大人しい顔つき。少々申し訳なさそうな視線を向けていたことに、湊は気づく。
「だったらよかった」
「え?」
「だって、私、そのことばかり気になってから。迷惑になってるんじゃないかって思って」
「そんなことはないよ。弓弦葉が気にすることじゃないよ」
「本当?」
「うん」
「よ、よかった……」
弓弦葉は肩の荷を下ろし、リラックスした顔を見せた。
一旦、三人でのやり取りが終わった頃合い。ちょうどいいタイミングで、四本のお茶のペットボトルを購入してきた紬が戻ってきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます