第23話 俺は、何としてでも、楓音から真実を聞きたい

 なんだよ、楓音の奴……。


 やっぱり、怪しい感じの人と、そういう関係なのか?


 街中にいる貴志湊きし/みなとは、そんなことばかり思考していた。

 道行く人とすれ違いながらも、湊は先へと進む。


 怪しいおじさんと一緒に歩いている石黒楓音いしぐろ/かのんを尾行し続けているのだ。


 真実は明らかにしておいた方がいい。

 本当に、怪しい人と如何わしいことをして、お金を稼ぐことだった場合、やめさせたかった。


 別に楓音のことは、どうでもいい話ではあるが、知っていて止めないのは、なんか、嫌だったのだ。


 というか、どこに向かってるんだろ。

 湊は、二人を見失わないように、程よい距離感を保ちながら歩いていた。


「ん?」


 二人は街中の途中で立ち止まっていた。


 何かと思い、湊も道端で立ち止まり、様子を伺う。


「……」


 その二人はやり取りを行っている。何について話しているかまでは、湊がいる場所からは聞き取れなかった。

 余計に近づくこともできず、歯痒い感情に苛まれていたのだ。


「なんだろ……」


 様子を伺っていると、どこかの店屋を指さしたりして、会話していたりする。


 何があったんだろうか?

 まさか、どこかに店屋に入店するつもりなのか?


 湊は二人を見ていると、背中に人がぶつかる。

 背後をチラッと見ると、知らない二十代後半の男性がいた。


「ちょっとさ、街中で立ち止まるのはやめてくれないか?」

「すいません」


 湊は面倒になりたくなかったため、すぐに謝罪する。


「まあ、いいけど。気を付けてくれよ」

「はい」


 湊は事なきを終え、再び、正面へと視線を移す。

 すると、そこには二人の姿がなくなっていたのだ。


「え? どこに行った?」


 湊は辺りをキョロキョロと見渡すが、どうしても二人の姿を見つけることはできなかった。

 見失ってしまったのか……?


 金曜日ということもあり、時間が経つにつれて、街中に人が多く集まってくる。

 えっと……本当に、どこに行ったんだ?


 湊は、周りにいる人らの横をすり抜け、動揺しながらも歩き出す。


「……」


 湊は内心、焦っていた。

 あともう少しで、真相に近づけたかもしれないのに、大きくしくじってしまったのだ。


「一先ず、街中を歩いてみるか」


 湊は二人がいなくなった場所周辺の店屋を見て回ることにした。

 湊がいる場所には、ラーメン屋、そば屋、洋食関係の店など、色々ある。

 他にも色々な店屋があるが、女子高生が、おじさんと一緒に入りそうな場所はどこなのだろうか?


 奢ってもらうなら、少し高めの店屋に入店するような気がした。

 けど、湊にはそこまでお金がないのだ。


 高級料理店に入店するにしても、学生服で入るのは難しいだろう。場違いすぎて、その店内の空気感に馴染めなさそうな気がする。


「今は余計に動いてもしょうがないし……」


 さっきの人とぶつかったものの、数秒の間だけ視線をそらしただけ。

 二人はそんなに遠くまでは向かってはいないと思う。


「でも、ここ周辺で立ち止まっているわけにもいかないよな」


 どこか、街中を見渡せるような、店屋に入りたい。


 道行く人を見かけながら、とある場所が湊の瞳に映った。

 それは、二十四時間営業している二階建てのハンバーガー店である。


 二階建てであれば、上の方から見渡せるのだ。その上、少ない額で商品を注文可能である。


 丁度いい場所を見つけたと思い、一先ず入ってみることにした。






 店内に入ると、少々混んでいる印象。

 でも、空き席がないわけではなく、探せば、どこかに座れるだろう。


 湊はそうこう考え、会計カウンターへと向かい、スタッフに注文しようとする。

 が、財布の中を覗いてみると、殆どなかった。

 金曜日ゆえ、金欠状態になっていたのだ。


 しょうがない……一番安いセット商品にするか。


 湊は、メニュー表をまじまじと見ながら、簡易的に注文できるであろう、ハンバーガーセットを注文した。


 基本となるハンバーガーとドリンクSサイズ。そして、フライドポテト。それもSサイズであり、自分のお金の少なさに絶望した。


 湊は注文を終え、入り口近くで待っていると、数分程度でトレーに乗った商品を渡されたのだ。


「あと、お客様」

「え?」

「上の席は先ほど満席になりましたので、一階の方の席になりますがよろしいですか? 申し訳ないのですが、ご協力お願いします」

「……」


 二階が満席?

 まさか……空いていると思ったのに。


 湊の作戦すべてがうまくいかなかった。


「わ、わかりました、一階にします」

「お願いしますね」


 スタッフの女性から、笑顔を向けられ、しょうがないと思い、一階の席を探る。


「……ん?」


 湊が席を探すため、一階周辺を回って歩いていると、丁度よく席から立ち上がった人がいた。


 しかも、その場所は、カウンター席で、窓から外を見渡すことができる。

 けど、二階のように全体を見渡せる席ではないが、都合がいいと思った。


 誰かに奪われる前に、カウンター席を確保した方がいいだろう。

 トレーを持った湊は駆け足で移動する。




 結果として、都合がよく席に座れたのだ。

 一瞬、別の人に席を奪われそうになったものの、強引に席を手に入れた感じだった。


 座ろうとしていた人からは変な目で見られたが、ここは辛抱するしかないと思ったのだ。


 優しいだけではダメである。

 絶対に譲ることができない時だってあるのだ。

 たまには強気になってもいいだろう。


 湊は気まずい視線を双方から感じながら、一番安いハンバーガーセットを食していた。

 窓側の席は手に入れたが、後味が悪い。


 湊は無言でハンバーガーを咀嚼しながら、窓の外の景色を眺めていた。


 というか……楓音って、どこの店屋に入ったんだろ?


 キョロキョロを見渡す。


 しかし、一階ということもあり、その窓から見える情報には限りがあったのだ。

 今いるハンバーガー店の反対側の道を見ることができないこと。

 多少の弊害はあったが、目を凝らしながらも人の動きを見ていた。


 なんとしてでも、楓音が本当に如何わしいバイトをしているのか、実際に確認したいのだ。


 湊の視線は険しいものになっていた。

 それにより、ハンバーガー店の前を歩く人から、窓越しに変な視線を向けられていたのは言うまでもない。


 ハンバーガー店に入って、一時間ほど。楓音の姿を見かけることはなかった。

 もしかしたら、もう別の場所に行っているのかもしれない。

 そう思い、湊は席から立ち上がり、食べたものを片付け、俯きがちに溜息を吐きながら店屋を後にしたのだ。


「え……」


 どこからか嫌そうな声が聞こえる。


 ハンバーガー店を後にした直後、湊が顔を上げると、そこには知らないおじさんと一緒にいる楓音の姿があった。


 タイミングがいいのか悪いのか、複雑なタイミングで、湊と楓音の視線が合ってしまったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る