第9話 私、湊君と、同じ趣味を共有したいの
「湊君って、こういうの見てるんだね」
漫画喫茶の個室。
隣の椅子に座っている幼馴染から、まじまじと見られている。
性癖交じりの作品を口にするのは緊張するものの、
弓弦葉も少年系の漫画に興味が出てきているのなら、男性寄りの作品に対する抵抗力はある程度備わっていると思ったからだ。
そんな意味合いだった。
別に、変なことなんて、まったく考えていない。
それは、本当である。
変な性癖に汚染させようとかではないのだ。
「でも、湊君って、いつからこういうのを見るようになったの?」
「それは、中学生の終わり頃から……」
「そうなんだ。湊君も、こういうの見たくなるんだよね?」
「ああ」
湊はゆっくりと頷くように言った。
が、こういった、如何わしい感じの漫画を読んでいることは今まで隠していた。
やはり、昔からの付き合いだったとしても、性癖を伝えることに、少々抵抗があったからだ。
今、パソコンの画面上には、漫画アプリサイトが表示されている。
そのサイトは、アカウントさえあれば、ログイン可能。湊は、自分のパスワードを入力し、開いていた。
「……ごめんね、私のわがままで」
「いいよ。でも、弓弦葉の方から、こういう風な漫画を見たいって、言ってくるなんてな」
本当に意外だった。
街中を歩いている際、彼女は一度、湊がどんな漫画を読んでいるのか、知るのを拒んでいたからだ。
「……でも、湊君のことを知れてよかったよ……高校に入ってから、ちょっと距離感があったからね」
「そうだな」
弓弦葉とは、湊がランニング部に所属するまで、殆ど関わっていなかった。高校一年生の時からクラスも違い。部活や委員会活動の影響もあり、プライベートでも遊ぶ機会がめっきり減っていた。
むしろ、部活に所属してよかったのかもしれない。今はまだ、デートというか、付き合う程度の関係性。
心のすれ違いはあるのかもしれないが、多少は距離感が近づきつつある。
そんな淡い気持ちを抱きつつ、隣に座っている弓弦葉を見やった。
「ねえ、湊君って、こういう漫画を見て、何を考えるの?」
「これを見て」
「うん」
弓弦葉は緊張した表情で、顔を近づけてくる。
彼女のちょっとした動きを見るだけで、ドキッとした。
嬉しくもあり、気分がフワッと浮いた感じになる。
その上、距離感が縮まると、弓弦葉の爆乳によって、右腕が挟まれ始めるのだ。
というか、どれだけデカいんだよ……。
確実にG以上はありそうだな。
如何わしい漫画のことについて会話しているからこそ、余計に、エロい思考回路に陥ってしまうのだ。
「ねえ、私、今の湊君のことも知りたいし。この漫画、後で少しずつ見たいんだけど」
「本当に、この続きを見るのか?」
「うん……ちょっと、恥ずかしいけど」
「そっか。だったら、スマホ貸して」
「え? スマホ?」
「そうだよ。アカウントを作ってあげるからさ」
「そ、そういうことね」
「ん? なんだと思ってたんだ?」
「んん、な、なんでもないから、気にしないで」
弓弦葉は不自然な態度を見せていた。
変な感じに使うと思っていたのだろうか?
幼馴染の関係だからこそ、雰囲気的に、そういう風に察したのである。
「これ、私のスマホね」
「これにアカウント作るから」
湊は弓弦葉のスマホを操作する。
彼女が普段から使っているスマホを弄っていると、弓弦葉のことをさらに近くに感じられた。
「これで、登録完了かな? 弓弦葉のスマホにアプリをインストールして、アカウントも作っておいたからさ。どんな作品でも見れると思うよ」
「本当?」
「うん。でも、作品によっては課金しないといけないけどね」
「そうなの? でも、さっき、普通に読んでいたよね?」
「あれは、すでに俺が課金して読める状態にしていたからさ」
「じゃあ、課金しないとダメってことね」
「でも、毎週無料で読める作品もあるし、そういうものから読んだ方がいいよ。ほら、このアプリサイトの上のところに、今週の無料作品一覧ってのがあるじゃん」
「うん」
湊は、弓弦葉にスマホ画面を見せ、詳細に説明してあげることにした。
「そうすれば、安く済むってこと?」
「まあ、そうなるね。あと、半額セールの時もあるしさ。俺が他にお勧めする漫画があったらさ。その都度教えるよ」
「本当に?」
「うん。高校生になってから、一緒にいる時が少なかったしさ。同じ趣味も、この頃なかったじゃん。だからさ、せめて、漫画とかで共通の会話をしたいなって」
「私も、湊君と趣味を共有したいし、お願いね、今後も」
「ああ。わかった。そういう約束でな」
「うん」
弓弦葉は満面の笑みを見せた。
「というかさ、少し離れてくれないか? ちょっと近いっていうかさ」
「⁉ ご、ごめんなさい……」
「いいよ。俺もよかったし」
「え?」
「んん、俺の独り言だよ」
湊はうまく誤魔化した感じである。
さすがに、おっぱいを堪能していたとは、口が裂けても言えなかった。
「湊君。今日はこれでね」
「ああ。弓弦葉も、気をつけてな」
「うん」
二人は漫画喫茶の前で別れた。
家がある方向性は同じなのだが、今日は今から用事があるらしい。
数分ほど前に、家族から連絡があったようで、今から街中のとある飲食店に行くことになったようだ。
というか、今日の待ち合わせもそうだったが、何かあったのだろうか?
ちょっとばかり考え込みながら、街中を歩き始める。
夜は暗く、気づけば、夜の八時頃。
少し歩いているだけで、居酒屋をはしごしているサラリーマン風の人物とすれ違う。
金曜日ということも相まって、気楽な人が多い。
「でも、ちょっと遅くなったし。早く帰宅しないと……」
時間帯的に早く帰らないといけない。
路地裏を通り、走ることにした。
「ん?」
ふと気づく。
視線を上げ、少し遠くの方へと目を向けると、そこには、人の姿があったのだ。
走っていたこともあり、急には立ち止まれない。
湊は急に止まろうとしたことで、そこにいた人とぶつかってしまう。
「きゃあッ」
「イテテ……す、すいません」
湊は謝罪の言葉を口にした。倒れていた湊は、その場に立ち上がり、ぶつかって、しゃがみ込んでいる人へ、手を差し伸べようとする。
「イテテテ……もう、何すんのよッ‼」
女の子の声。
どこかで聞いたことのある口調。
薄暗くてわからなかったが、そこで、尻餅をついてしゃがんでいる子を、よくよく目を凝らしてみると。その女の子は、ドレス姿をした
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