第7話

(──って思ってたんだけど、なんで私が乗ってんだ?)


アルフレードがシャーリンに手を差し出したまでは良かったけど、そのシャーリンは他の騎士と一緒に王宮へ行ってしまい、残された私は何故かアルフレードと一緒に黒竜に乗っている。


何故こうなったかと言うと……


シャーリンがアルフレードから他の騎士に代わった時点で「あれ?」とは思った。

他の騎士にシャーリンを任せたアルフレードは真っ直ぐ私の元へやって来て手を差し伸べてきた。


「行くぞ」

「は?」


何でアルフレードが私の所に来るんだ?

団長なら殿下の婚約者候補であるシャーリンを自ら送り届けるのが普通だろ?


あまりにもおかしい展開に、黒竜に乗るのを散々ごねた。

ゴネてゴネまくった結果、痺れを切らしたアルフレードに「煩い。黙って乗れ」と物凄い形相で言われたもんだから仕方なく乗っている次第です。はい。


私は幼い頃から竜に乗るのは夢だったけど……物凄い乗り心地が悪い。いや、言い方が悪い。

で乗り心地が悪いの間違い。


黒竜自体はスベスベした鱗に安定した飛行で言うことなし。


まあ、こんな形だけど乗れたのはいい記念。しっかり景色だけでも堪能しよう。

黒竜に乗ることなんて生涯の中で最初で最後だろからな。


そう思うことして、顔を上げ景色を堪能していたら後ろから声がかかった。


「今日はすまなかった……──実は隠れて後を追っているのを同業の奴に見つかって、事情を説明している間に見失ってしまって……」

「えっ?じゃあ、どうやって居場所を?」


「それ」と指を刺されたのは、父様から貰ったナイフ。


「そこに石が嵌め込まれているだろ?それがローゼル嬢の居場所を教えてくれた」


今まで気づかなかったが、よくよく見るとそれはただの石ではなく魔石だった。

察するに魔石は追跡機能が付いていて、このナイフを持ち歩いていれば私の居場所は一目瞭然という訳だ。


(なに勝手に追跡機能GPSつけてんの!?)


「居場所は分かったが、既に船が出てしまっていて陸から離れていた。仕方なく黒竜こいつを連れに戻っていたんだ。……全ては私のミスだ。すまなかった」


本当、団長ともあろうお方が対象者を見失うなんて有り得ませんよね?──って言おうと思ったけど、本気で悪いと思っているのか随分汐らしいアルフレードにはそんな事は言えなかった。


「……はぁ~ぁ、もういいですよ。みんな無事ですし、私も黒竜に乗れましたし?まあ、一言言わせてもらえば、私が殴る相手を一人ぐらいは残しておいて欲しかったぐらいですかね?」


あいつら散々私を弄んだんだから、それ相応の代償を受けてもらわなきゃ腹の虫が治まらない。

それをアルフレード一人で全員潰してしまったんだから、それぐらいの愚痴は言わせて欲しい。


「──……ぶっ!!」


真剣に私が言ったのに、アルフレードは吹き出し笑った。


「貴方は本当におかしな人だ」

「閣下には言われたくありませんが?」


ムッとしながらアルフレードを睨みつけるが、全く効果がない。むしろ、楽しんでいるようだった。


(流石にちょっと疲れたな……)


いい感じの揺れにひんやりと気持ちのいい鱗に癒しの効果があったのか、一気に睡魔が襲ってきた。


「寝てはいけない」そう頭では思っていても、瞼は言うことを聞いてくれず、いつの間にか夢の中にへと堕ちて行った……


◇◇◇


次に目を覚ました時には、私の部屋のベッドの上だった。


「ふぁぁぁ~!!」と伸びをして固まった体を解していると「お目覚めですか?お嬢様」とタイミングよくお茶と軽食をワゴンに乗せてエルスが入ってきた。


エルスは手際よくお茶を入れ、私に手渡してきた。

そして、早速小言が始まった。


「まったく、あれ程忍耐ですとお伝えしたはずなんですが……貴方様の脳みそは活動しておりますか?」


呆れたように言うエルス。相変わらず主人に対しての扱いが酷い。

かと言って今更主人らしく扱われても鳥肌ものなんだけどね。


まあ、それはともかく私が自分の部屋にいるということは、アルフレードが送ってくれたのだろか?


……まさかね……


きっとエルス辺りがここまで運んでくれたに違いない。うん。きっとそうだ。むしろそういう事にする。


「閣下にお会いした時にお礼をお願いしますね。お嬢様、閣下から離れなくて大変だったんですから」


エルスは軽食を小皿に乗せながらサラッと言ってきた。

その言葉を聞いた瞬間、思わず口に入れてたお茶を吹いた。


「嘘でしょ!?」

「あぁ~ぁ何してんですかもぉ~。私がそんな嘘ついてどうするんです?」


慌ててタオルを持って私のびしょ濡れになった口元を拭いてくれた。


確かに、エルスは嘘は付かない。

という事は、本当の事なのか……!?


全身の血の気が引いた瞬間だった。


これは次会った時に絶対弱みに付けんでくるに違いない。

あの男はそういう奴だ。


(でも、よく考えたら任務は終了したんだから、もう会うことなくない?)


そうだ、相手は竜騎士団の団長。私はただの令嬢。普通なら会うことは無い人物だもの。


そう思うと少し楽な気持ちになれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る