第5話
ドサッ!!
乱暴に床に置かれると、ようやく麻袋から開放された。
辺りを見渡すと物置のような部屋に、数人の令嬢達がすすり泣きながら怯えていた。
どうやら上手く潜り込めたようだ。
「お前もここで待ってろ」
先程の男がそう言いながら扉を閉め、施錠をして行った。
とりあえず、深呼吸をしてから拘束されている手の縄を解く。
何故縄が解けるかって?
これは縛られる時に手をわざと交差して縛られる。すると、手を真っ直ぐした時に隙間ができるから、その隙間から手をすり抜ければ拘束なんて何の役にも立たない。これは前世の時の知恵袋。
「──さてと」
手首を擦りながら、ここが何処なのか小窓から外を見てみると、そこには海が広がっていた。
どうやらここは船の中らしい。
(船か……こりゃ短期戦でいかないと手遅れになるぞ)
地上なら馬を走らせれば何とかなるが、海上はそうもいかない。
(──っち、面倒な……)
そんな事を思いつつ改めて令嬢達を見ると、一人だけ凛として前を見据えている者がいた。
(へぇ。流石だねぇ)
どこの令嬢だろうと、好奇心が湧いた。
「あの、すみません……」
大人しく、怯えた令嬢を装いその令嬢に声をかけてみた。
「貴方も捕まってしまったの?大丈夫よ。きっと助けは来るわ」
目にはまだ希望の光が宿っていたが、手を見るとフルフル震えてる。
周りが怯えている中、自分だけは令嬢らしく振舞おうと言うことか……
(その心意気よしっ!!)
「……すみません。貴方のお名前をお聞きしても?あっ、申し遅れました。私、ローゼル・シュリングと申します」
「わたくしはシャーリン・オースティンです。シャーリンと気軽にお呼びください」
その名を聞いて目を見開いた。
(この人がシャーリン……)
いや、なんと言うか、殿下の婚約者と聞けば愛らしくか弱くて、小動物の様に体を震わせ目をウルウルさせて助けを待っているイメージだったもので、こんな凛々しい婚約者想像していなかったって言うか……
「……どうしました?」
「あっ!!いえ、なんでもありません!!私の事もローゼルと好きなようにお呼び頂いて結構です。私は遠慮なくシャーリンと呼ばせていただきますね」
「はい」と可愛らしく微笑み返された。
凛々しい容姿とは別にこんな愛らしい表情もできるのかと驚いた。
私はシャーリンの震えている手を取り「大丈夫。もうすぐ助けが来ます」と伝えた。
私の言葉を聞いたシャーリンは緊張の糸が切れたのか目に涙が滲んだ。
(怖かったよね。もう大丈夫)
そう心の中で呟きながら、優しくシャーリンの背中を摩った。
(しっかし、遅いなぁ)
私が令嬢達の元に着いたらすぐにアルフレードが突入してくる手筈だったはず。
それなのに一向に突入した気配がない。
(アルフレードに何かあった?)
いや、あの男に限ってそんな事は有り得ない。
まあ、万が一アルフレードに何かあっても私が何とかすればいいだけの事。
(それに、そうなればアルフレードに借りを作れる)
そう考えると、ちょっとご機嫌だ。
「ふふっ」とアルフレードに借りが作れた時の事を考えると思わず笑みがこぼれた。
そんな私をシャーリンが不思議な顔で見ていたのは言うまでもない。
「……ローゼルさんは、怖くないのですか?」
「えぇ。だって、助けは必ず来ますから」
予定ではもう来ているはずなんだけどね。
「ローゼルさんは強いですわ。わたくしはどんなに強がっても心の底では恐怖に怯えているのに」
まあ、そうだよね。普通の令嬢はこんな場面に出くわしたら誰でも恐怖に慄く。
でも、初めシャーリンを見た時、貴方一人だけ気丈に振舞っていた。それだけで十分強い人間だよ。
その時、ガタンッと部屋が揺れた。
アルフレードが来たのかと思ったけど、どうやらそれは違った。
すぐにこれは船の揺れだと気がついたからだ。
(まずいな……)
私達が捕まっているのは船の中。
その船が今まさに出港しようとしている。
(もう、待てない!!!)
スッと立ち上がり、太腿に付けていたナイフを手に令嬢達に声をかける。
「今から貴女方を逃がします!!私の後に付いてきてください!!」
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