第3話

この国には二つの騎士団が存在する。

一つは聖騎士団と呼ばれ、主に街の治安や国王陛下や殿下の護衛を務めている。

そこの団長はクラウス・ヴェルナー。通称白の天使。

真っ白な団服に映える白銀の髪。色気を漂わせた目を見張るほどの美形。極めつけは老若男女誰にでも優しい。本当に天使のような存在だ。


それと正反対なのが竜騎士団。団長は今目の前にいるアルフレードこの人。通称黒の悪魔。

真っ黒な団服に血を浴びたような赤い髪、冷たい眼差し。見た目はいいのに中身は悪魔のような人物。

そしてアルフレードを見てわかるように、この団は戦闘専門。

血の気の多い奴らしかいない。

だから、アルフレードの印象も相まって竜騎士団の評判はあまり良くない。

因みにこの人、王弟だったりもする。


「……ル……ゼル……ローゼル!!」


「はっ!!」とすると目の前には父様、奥には怪訝な顔で私を見下ろしているアルフレード。

そりゃそうだ。あまりにも驚いて口が大きく開いたままだったのだから。

こんな令嬢らしからぬ姿を見せるとは、なんと言う失態。


「……も、申し訳ありません。取り乱しました」

「大丈夫かい?」

「えぇ。すみません父様」


心配そうに私を見ている父様に安心するように伝えてから、アルフレードに向き合い自己紹介をした。


「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。ローゼル・シェリングと申します」


今更格好付けてカテーシーなんぞ決めても無意味なのは分かっているが、表の顔は才色兼備で通ってるんだよ。


「──ローゼル嬢は騎士を見るのが初めてなのか?私が思っていた淑女とはかけ離れた方の様だが?」


「くすっ」と人を小馬鹿にしたような態度で言われ、思わず言い返そうになったが、グッと堪えた。


(我慢だ。私の表の顔は才色兼備。淑女の鏡なんだから)


「──……ゴホンッ。それでは、アルフレード閣下。どうかうちの娘をよろしくお願いします」


父様が話を逸らそうとアルフレードに話しかけたが、それがいけなかった。


「あぁ、私のしなければ怪我などしませんよ」


横目で私を見ながら、さも私が弱いと言いたげな顔に腹が立ち、ついつい言い返してしまった。


「アルフレード閣下のお手を煩わせる事なんていたしませんわ。これでも私はシェリング家の人間ですから。むしろ、私の剣の前に出ないでくださいませね?敵かと思って斬りつけてしまいますわよ?」


クスクスと微笑みながら挑発してやった。

しかし、相手は一枚上手だった……


「ほお?ローゼル嬢は敵と味方の区別もつかないのか?」

「なっ!?」


相変わらず嫌味な笑顔で私を見下してくるこの男に殺気だだ漏れで睨みつけていると、父様に止められた。


「申し訳ありません、閣下。娘はまだ大人の言葉遊びを理解していなのです」

「言葉遊びよりも先に暗殺を覚えたのか?それはそれは立派なご令嬢だな」


噂では無口で余り喋らないと聞いていたのに……この男、性格が悪すぎだろ!!


(腹立つ!!あの綺麗な顔に傷をつけてやりたい!!)


父様は私とアルフレードの様子を見て、早々に私をその場から退出させた。

父様の判断は正しい。あのままあの場にいれば確実に私が限界を迎えていた。


「エルス!!エルスいる!?」


私は苛立ちながら自室に戻り従者のエルスを呼びつけた。


「何です?まだお茶の時間ではありませんよ?」


茶髪に眼鏡をかけ、見た目だけなら教養がありそうに見えるのが私専属の従者。


「エルス!!ちょっとストレス発散に付き合って!!」

「またですか?」


文句を言いながらもちゃんと木刀を二本用意してくれるんだから、良い奴だ。

私は動ける格好に着替えて庭に出るなりエルスに仕掛けた。


「──くっ!!不意打ちも良いとこじゃないですか……──で?今日はどうしたんです?」


カンカンッ木刀が当たる音が響く中、エルスが問いかけてきた。


「別に!!ちょっとムカつくやつに会っただけよ!!」


「へぇ~」


それ以上は何も聞かず、私のストレス発散に付き合ってくれた。

初めてエルスと剣を交えたのは6歳の時。

その時に察した。


(エルスは強い)


本気でかかってこいと言っても絶対本気は見せないが、この屋敷にいる使用人の中では群を抜いて強い。

隙を見せたら私なんてすぐに殺られる。

だからエルスとのストレス発散は私にとっても大事な訓練の一部になていた。


「お嬢様。毎度言いますが、その様に殺気まみれではウサギ一匹仕留められませんよ?それに……ほら、隙だらけ」

「──ぐっ!!!」


脇腹に一発入った。そうは言っても本気で殴られてないからちょっと痛む程度ですぐに体勢を立て直せた。


エルスは執事長の息子で、私が物心付いた時から一緒。3歳年上のエルスは幼いながらに私の事を本当の妹の様に可愛がってくれた。


(今では嫌味全開な侍従になっちゃったけどね!!)


それでも、気心知れた相手には変わりないから私の侍従はエルス以外は考えられない。


「気持ちここに在らずですよ?……いけませんね。そんな事ではいつまで経っても私に勝てませんよ?」

「ちょっと昔の事を思い出してたの!!昔のエルスは可愛かったのになぁ!!」

「お嬢様も昔の方が純粋で可愛らしかったですね」


クスッと嘲笑うかのように言われた。


「ええ、そうですね!!──あぁ~ぁ、昔のエルスは優しくてかっこよくて頼りになって好きだったのになぁ!!」

「……………え?」


私の言葉を聞いたエルスに一瞬隙ができた。


(なんか知んないけど、今だ!!)


私は素早くエルスに向かって剣を振り下ろした。


カーーーン!!!!


「……今のは少し危なかったですね」

「くっそ!!!また負けた---!!!」


私の木刀は寸前の所でエルスに弾かれ、本日も負けた。


通算1983戦中1983敗

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