第2話

「私達シェリング家は、代々暗殺を生業にしているからね。ローゼルも立派な暗殺者になるんだよ?」


頭を優しく撫でながら微笑む父様の口からとんでもない事実を聞かされた。


ここは、私がいた世界とは違う別の世界。私は異世界に転生したのだと分かった。


(まあ、薄々は感じてたけどね)


そして、どうやら令嬢とは名ばかりの暗殺一族の元に生まれ変わったらしい。


(まさか暗殺者とはね……)


やっぱり私はどの世界にいても、手を汚さないと生きていけないのか?出来ればのんびり暮らしたいものだ。──と、そう思ってはみたものの……


初めて殺されかけてから数日後、そのまた半月後、そのまた一ヶ月後……とまあ、立て続けに刺客が私の命を狙いにやって来た。

こちらとら、まだ乳飲み子。逃げることは疎か、反撃も出来やしない。それなのにこっちの世界の人間ときたらまったく容赦がない。


「貴様ら!!赤子相手に恥ずかしくないのか!?」と何度も叫んだが、出てくる言葉は喃語。相手には伝わらない。


殺らなきゃ殺られる!!この世界は平和な世界じゃない。弱肉強食の世界だ。

人を殺めるのは良くない?そんな甘っちょろい事を言ってると自分の命が無くなる。

前の人生では何十人、何百人と人を殺めてきた。

今更人を殺めるのに躊躇などしない。


こうして物心つく前から命を狙われて、ようやく一人で歩けるようになった所で早速剣術を教わるようになったが、元々マフィアをやっていた私だから体が小さくなっていても剣や銃の扱いには慣れている。逆に小さくて身軽ときた。

その姿を見て喜んだのは当然父様。


「うちの子は天才だ!!」


と大喜びでプレゼントされたのが、私の名前が彫ってあるナイフだった……


(どうせなら真剣の方が良かった)


まあ、そんな紆余曲折を経て、立派な暗殺……いや、令嬢に育った私なんだが、こうしてたまに父様から任務を任される。


(最初の任務は確か……10歳の頃だったか)


とある貴族とその貴族が取引をしていた貿易商が対象だった。

どうやら裏で魔獣の取引をしていたようで、国王陛下からの依頼だったらしい。


そして、私の初仕事だが、当然白星。

5分で片をつけた。


その現場に踏み込んできた騎士達が目の前の惨状を見てドン引きした顔は今でも忘れられない。


そして、今現在。新たな任務が……


「実はこれは国王からの依頼ではなく、オースティン侯爵家からの依頼だ」


侯爵家直々に依頼とはね。


うちを使うには相当な報酬がいるのに、うちを使うという事は……


「──あぁ、お前が思っている通りだ」


チラッと父様の顔を見ると、私の言いたいことが分かった父様がため息を吐きながら言った。


「オースティン侯爵家のご令嬢。シャーリン嬢の救出だ」


やっぱり。


「シャーリン嬢はノルベルト殿下の婚約者候補でな。オースティン家は何がなんでもシャーリン嬢を無事に奪還したいのだろう」


まあ、当たり前だよね。

娘が王家に嫁げば親であるオースティン家には王族という強い後ろ盾が出来る。

確かに一番有力候補はシャーリンであることに間違いないが、まだ候補止まりで正式な婚約者じゃない。

今回の件は大方、他の婚約者候補の家が手を回してるんだろうな。


これだから愛だの恋だのは面倒臭い。

お一人様の方が気楽でいい。私は前世同様、恋愛も結婚もする気はない。

跡取りはどうするんだって?そんなもの、父様と母様が頑張れいい。まだ若いんだから弟か妹が出来るだろうに。その弟か妹がどうにかすればいい。


そんなことを考えているとはつゆ知らぬ父様は話をどんどん進めていった。


「そこで今回お前は、か弱い令嬢と言う設定で大人しく誘拐され、シャーリン嬢の居場所を突き止め救出して欲しい」

「いや、まあ、それはいいのですけど、流石に捕まっている令嬢一人だけ逃がす訳にはいきませんよ?私が行くのなら全員救出します」


当たり前の事だけど多数捕まっている中、特定の人一人だけ逃がすなんて事は私には出来ない。

だけど、そうなると私一人では荷が重い。


(捕まってる数が多すぎるんだよ)


「話は最後まで聞きなさい。依頼主はオースティン家だが、この事件を収束させたい国王陛下が騎士を貸してくれる事になった」


おや、珍しい。

あの狸親父が騎士を貸してくれるなんて、嵐でも来るんじゃない?


「……で?その騎士はどちらに?」

「あぁ、丁度いいから挨拶しなさい」


父様が合図をすると、一人の騎士が入ってきた。

サラッサラの赤髪を靡かせ、目鼻の整ったイケメン。それに中々いい筋肉をした騎士に思わず目が奪われた。

しかし、目を奪われた所はもう一つ。

団服にキラキラと光る勲章。それには竜が描かれていた。


(えっ?この人……)


「この方は竜騎士団団長のアルフレード・シュルンツ閣下だ」

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