第6話 キス

 床に座ると、ベッドで眠る光国の寝顔をじっと見た。夢を見ているのか、時々微笑んでいる。その幸せそうな表情に、私はほっとして思わず微笑んだ。


 知らぬ間に、私もベッドのふちに頭をのせて眠ってしまっていた。


 髪に触れられた感じがして目をゆっくりと開けると、光国が私の髪を一筋握っていた。が、私が目覚めたことに気が付くと、その手を広げた。握っていた髪が彼の手から滑り落ちて行った。光国は、その行方を目で追った後、体を起こし、


「ミコ。会えて嬉しいよ。だけど、さっきのはダメです。ああいうのはダメです。オレの気持ちも考えてください」

「気持ち?」

「とぼけるんだ、おまえは。わからないなら、それで結構」


 何を言いたいのかはわかっている。だけど、私の気持ちも考えてほしい。いつもなら絶対に口にしないのに、止められなかった。


「私の気持ちも考えて。さっき、私はあなたにそうしたかったの。わかるでしょう。

 あなたと私の関係が世の中に知られたらまずい。わかってます。私が子供だから、深い関係になれない。それもわかります。だけどミコは、ちょっと…」

 口をつぐもうとしたが、結局出てきてしまった。


「ミコは寂しいです。ミコは…」

「ごめん」


 光国はそう言うと、私をぎゅっと抱きしめて、それからキスをした。これは、初めてのキスだ、と、どこか冷静に考えていた。唇が離れて、彼はもう一度、「ごめん」と言った。


「あやまらなくていいです。ミコは嬉しいです。光国が…」

 言うのをやめた。もう十分だ。でも、光国はちょっと困ったような顔をしている。


「オレ、その内おまえにいけないことしちゃうんじゃないかって、それを恐れているんだよ。わかってると思うけど。

 オレのこと、笑ってくれ。その方が救われる」

「笑いません」

 少しも笑わずに言った。


「笑ってくれればいいのに」

「笑いません。だって、ミコは…」

 そうされてもかまわないと思っているんだから、なんて言ってはいけない。だから言わない。


 光国は、相変わらずの困ったような顔で私を見ると、

「煽るなよ。オレはな、そんなに冷静でいられません」


 ベッドから立ち上がると私の髪を撫で、すぐに部屋から出て行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る