ホワイトアウト

結騎 了

#365日ショートショート 200

 ここでは、一秒が一秒ではない。

 世界中からアクセスが集中し、瞬く間に世界中に送信されていく。精鋭スタッフは昼夜を問わず仕事に没頭していた。

「そろそろ休みはないのかい」

 男はぼやいた。隣のデスクでディスプレイに噛り付いている女が、視線をそらさずに答える。

「休みなんてあるわけないじゃない。特にここ数年なんて、例の疫病のせいで仕事が増えているわ」

「そうだよなぁ。嗚呼、やだやだ。ゆっくりバカンスでもしたいよ」

 キーボードを叩き、マウスを小刻みに動かしながら、男は作業を続けていた。動画の編集である。数えきれない物量の素材から必要と思われるカットを抽出し、急いで切り貼り。ホワイトアウトの演出を加え、一本のムービーとして仕上げる。それを黙々と、何千件も、何万件も、何億件も、何兆件も、繰り返していく。

「それっ!送信。さて、次のムービーは……」

「はい、注目注目~!」

 突如、マネージャーが大声と共に部屋に入ってきた。スタッフ一同、悪い予感に背筋が凍る。

「今しがた、北アメリカで地震が起きた。規模はかつてないくらい。津波も迫ってる。いいかい、構えて。スピードが命だ」

 女は大きな溜息を吐き、肩を回した。

「はぁ。仕方ない、やりますか」

 男も、わざとらしく指を鳴らしてみせた。

「走馬灯が見られないなんて、やっぱり悲しいもんな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホワイトアウト 結騎 了 @slinky_dog_s11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ