広島壊滅と陸軍将校用官舎

 8月のある晴れた日のことです。その日は空襲警報もなくほっとしていると「広島から汽車で逃げて来た」という知らない人が我が家にやって来ました。

 その人は、「広島の街は1発の爆弾によってなくなってしまった。人も街もなくなってしまった」と言って泣きました。

 「次は大阪かもしれない」と誰もが思いました。

 母は(かわいそうに思ったのか、)そうした(広島から逃げて来て)行く当ても住む家もない人を泊めてあげることにしました。

 するとそうした人々が次々とやって来て、10世帯もの人で我が家の1階が占拠されてしまいました。

 母も空襲で焼け出されているため、全てをなくしたつらさが理解できます。だから(そうした困っている人々を)「助けてあげたかった」のでしょう。

 ちなみに、(避難してきた人々は)どの人も着の身着のままでしたが、「布団はなくても、雨露がしのげて畳の上で眠れるだけで充分」とひしめき合うようにしてゴロ寝をしていました。

 とは言え、そうした状況をうれいた父は、家族を連れて陸軍将校用官舎へと引っ越しました。

 するとそこは、電気が点き、水道やガスも使える「夢のような家」でした。

そのため、父はすぐにラジオを手に入れて来ました。

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