危機一髪

 空襲警報のサイレンが鳴った場合、私と兄は先に逃げるように言われていたので、すぐにリュックを背負い、両手に荷物を持ち、淀川の川原に向かって家を飛び出しました。

 なぜなら、母は赤ちゃんを背負い、小さな息子と娘を連れて逃げるので遅くなるからです。

 私と兄の荷物は、焼け出されて以降やっと手に入れた衣類などです。

大切なものなので、もうなくすわけにはいきません。そのため、それらはいつでもすぐに持ち出せるようになっていて、私と兄が何を持つかも決めてありました。

とは言え、7歳の子どもが、3つもの荷物を持って走ることは大変なことです。


 ある空襲の時、(川原まで逃げる途中だった)兄と私との間に爆弾が降って来ました。

荷物を持っていたとは言え、身体が宙に飛ばされ、上から土も降って来ました。

 (気が付いた時には)目の前の道に大穴が空いていました。兄も穴の向こう側で転んだままこちらを見ていました。

(そこではっと正気付き、私と兄は)改めて無我夢中で走り出しました。

 そしてどうにか川原まで辿り着き、葦の草むらに身を隠したところで、震えが止まらなくなりました。

 おそらく、私の足が兄より遅かったため助かったのだろうと思います。

 爆撃は激しく、母たちのことが心配でたまりませんでした。

 空襲警報が解除されても、(私と兄は)その場で母たちが来るのを待ちました。

 母たちは途中で身を隠していたのだそうで、私と兄が無事だったことをとても喜んでくれました。

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