第22話 過去

 これは、私の過去のお話。


 私の中学時代は、華やかなものだったと言っていいだろう。友達にも恵まれクラスの中心的人物だったと言っても過言ではないくらいだ。


 自分で言っては何だが類まれなる容姿や運動神経、それに勉強も卒なくこなしている私は学校中からの注目の的だった。


 正直いうと調子に乗っていたと言ってもいいだろう。


 中学生の多感な時期にあれだけ注目を集めて、一種有名人のような扱いを受けていたのだから仕方が無い、というのはいい訳だろう。


 私にはよく親しくしていた人が三人いた。


 その中でも私と最も親しかったのは、柊美亜。お節介で、優しくて勉強もできて色々そつなくこなせてそんな彼女の事を私はとても好ましく思っていた。


 美亜とはいつもほかの二人よりどこかに出かける回数や、話す回数も多かった。


 特に差別何てしたつもり何て微塵もなかった。他の二人の事も別に嫌いではなかったしこれからも友人関係が続くとそう思っていたのだ。


 だけれど、段々おかしな方向へと風向きが変わった。


 いつの間にか美亜が私を徐々に避けるようになっていったのだ。


 理由なんて分からなかったし、私が美亜に何かした記憶もないから戸惑った。美亜本人に聞いても「何でもないよ、ただちょっと忙しいだけ」と言ってくる。


 一緒の帰ることも段々と減っていった。


 それにつれて、他の二人が私の近くにいることが多くなっていった。


 呑気な私は、少し親密になりすぎちゃったのかな?距離感間違えちゃったのかもとか考えている始末。


 何も知らない私は、他の二人と遊ぶことが増えていき美亜と喋る回数も減っていった。


 どうしてもっと美亜を見てあげなかったのだろう。彼女はどんな顔をしていた?彼女の言葉の節々には不安が溢れていなかったか?もっと良く彼女と何故話し合わなかった。


 後悔先に立たず、覆水盆に返らずとはよく言ったものだ。


 もう気づいたころには何もかも遅かったのだから。


 最後に美亜が放った言葉は今でも鮮明に覚えている。


「ねぇ、冴姫。私がもし死んじゃったらどうする?」


 彼女はこう言った。


 私はいつもの冗談だろうと、何も考えず軽口を返してしまった。その時美亜が一瞬悲しそうな顔を浮かべてから、口元を無理やり微笑ませて軽口を返してきたことまで、あの部分を動画で撮ったのではないかというほど鮮明に記憶されている。


 その次の日、美亜は学校に来なかった。


 風邪かなと思ったらそんなものではなかった。


 美亜はもう、二度と学校に来なくなったのだから。


 私は何があったのか知りたかった。私はあの時美亜は私の親友だと心の中で自称していた。ものすごく悲しかったし、何より美亜が自殺してしまった原因が許せなかった。


 美亜がいなくなってからというもの二人の様子が明らかにおかしくなっていた。


 何か怪しいと感じた私は、二人を問いただすと帰ってきた答えは


 私達が、彼女を揶揄っていた。という話だった。


 罪を軽くしようと揶揄ったなんて言っているけれど、そんな揶揄う程度の物なんかではなかった。


 立派ないじめだった。


 私は彼女たちを責めた。


 なんでそんなことを、どうしてそんなことをしたんだと。責めて理由が聞きたかった。何か正当な理由があるのではないかと思ったのだ。


 だが、帰ってきた答えはこうだった。


「冴姫と一番親しげだった、美亜がずるいと思ったし羨ましいと思った」と。


 なんだそれは。


 その答えを聞いたとき、私は怒りが頂点に達して彼女たちの事を殴ってしまった。怒りに身を任せて何度も。


 途中誰かが悲鳴を上げて先生を呼びに行ったことでその場の収集はどうにかついたけれど、その後のことはあまり覚えていない。


 何も考える気力何てなかった。


 誰が悪かったんだろう。理不尽な理由でいじめをした友達二人か?それとも助けてと言わなかった美亜か?


 意味もない悪者探しが脳内で起こる。誰かのせいにしたかった。私は悪く無いのだとそう思いたかった。


 確かに、友達二人も悪いだろうけれど、何故私は気づけなかったのだろう。何が親友だ。何が友達か。


 他の誰でもない自分が悪いという結論に至ってしまった。


 そこから、私は友達、というものを作ることをやめた。親しくなれば傷つけてしまう。親しくすればするほど見失ってしまう。相手との距離感。言葉の一言一言が刃となる。


 私の心はあの一件で私の心は凍てついて尖った物になった。


 その後の中学生活を大人しく終え、地元から逃げるようにしてかなり遠くの進学校であるここに引っ越してきた。


 あの二人がどうなったかなんて分からないし、知りたくもなかった。


 私はあの一件を直視したくはなかったけれど、美亜にだけは謝りたくて。美亜にだけはどれだけ謝っても償いきれないほどの罪が私にはあって。


 許して欲しい、なんて口が裂けても言えるわけがないしそんな権利なんて私は持っていないことも重々承知している。


 ただ、謝りたかった。


 御免なさいって。美亜のどんな表情でもいい。私を罵倒する表情、無表情でも、何でもいいから一度でいいから彼女に会って謝りたかった。


 彼女になら殺されても良いとそう思っている。


「美亜、ごめんなさい。ごめんなさい」


 お墓の前でみっともなく泣き崩れてしまう。


 これが馬鹿で愚鈍でクズな私の過去。



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