第十一集:因果応報
灰が散り、声を持たない
子供たちを救おうと集まってきた
「何を……、何をやっているんですか!」
わたしは無意識に叫んでいた。自分が思っていたよりも、ずっと大きく悲痛な声で。
「あ? 誰だ、お嬢ちゃん」
「駆け出しの
「どいてください! このままじゃ、全部燃えてしまう!」
「だからやってんだよ。もう繭は全部回収済みだからな。
「そうそう。虫って気持ち悪いし! 必要な物もらったら駆除しとかないとねぇ」
六人は
燃えて落ちていく虫たちのことも、虫を護ろうとするわたしのことも。
「が、害虫⁉
腕を掴まれそうになり、
「ちっ。知ってるよ? だから殺してんの。繭盗るときに
「あのさぁ、お嬢ちゃ……、いや、男か? 駆け出しだからわかんないかもしれないけど、
さも当然というように、燃え盛る大木の数々になおも火をくべていく
わたしは自分でも気づかないうちに涙を流していた。
「効率⁉ 命の方が大事でしょう! それに、燃やしてしまったらもうここでは繭がとれなくなってしまうんですよ! 育んでくれる
涙をぬぐいながら必死で叫ぶわたしの姿を見て、初めはニヤニヤとしていた
「そんなの知ったこっちゃねぇよ。
「その通り。心配するだけ無駄だよ、少年。それに、今に始まったことじゃないし。ここの桑の木、去年も焼いたよね?
「おう! あのときは急いでたからな。たぶん、生き残ったやつらがまたここに巣を作ったんだろう。おかげでまた繭が盗り放題だったぜ!」
「そ、そんな……」
あまりのショックに言葉が出なかった。
「少年のその恰好……、本当に
隊長、と呼ばれている男は目を細め、何かを思い出すように顎をさすりながらわたしを凝視した。
「もしかして、どこかの蒐集屋敷の所属か?」
「それがなんですか。何か関係あるんですか」
「何耀だ」
「……教えません」
「日耀じゃぁねぇな。あそこはガタイの良い男しかいねぇ。月……、いや、どの耀でもねぇ。基本的に単独行動を許すような耀はないはずだ」
すると、女性の
「……なるほどな、そうか。
空気に緊張感が走った。
わたしの目の前にいる六人の
「蒐集屋敷ってのはな、俺たちみたいな
隊長の男は一歩ずつ下がっているわたしを追い詰めるように、じりじりと近づいてきた。
「ただ、外れてるって言っても、
銃剣を構えた隊長の男が、わたしにその銃口を向けた。
「だから、死んでもらう。まぁ、
低く乾いた爆発音。
放たれた銃弾は確かにまっすぐとわたしの額に向かって飛んだ。
が、しかし、その弾は顔の前で純白の輝く糸に絡まり、そして地面にポトリと落ちた。
「少年、魔術師か!」
隊長の男の「やっちまえ!」の声を合図に、全員が一斉にわたしに襲い掛かってきた。
背後から飛んでくる
青龍刀による斬撃は
柄の長い
あとは隊長ただ一人。
「な、なかなか強いじゃねぇか。本気だせよ、仙術師。それとも、人間を殺すのが怖いのか? ん? 殺したこと無いんだろう、なぁ、なあ! 俺たちはあるぞ。人間も、魔術師もな!」
振りかぶった銃剣が振り降ろされた瞬間、姿勢を低くして間合いに入り、
すぐに背後に回り、よろめいた隊長の右腕を銃剣ごと後ろに捻り上げ、膝を蹴り、跪かせた。
「なんだよ、殺せよ! はやく首を切ればいいだろ! この、殺戮兵器どもが!」
「……それがなんですか? 逆上すると思ったんですか? 残念ながら、歴史の授業でそういったものは習っていますので、今更怒ったりしませんよ。そういう時代じゃないんで」
「くっ、クソガキが!」
わたしは持ってきていた
「な、やめろ! ほどけ! 何するんだ!」
「大丈夫です。きっとほかの
「く、くそが……」
わたしは熱さと痛みで気絶した六人をよそに、黒焦げになってしまった
埋めてあげる時間はないし、もしかすると他の
「はぁ……。ん? あ!」
少し遠くの草むらに、三匹だけ、
それでも、高い場所から落ちたのだから、怪我をしているはずだ。
わたしは燃えず残ったわずかな桑の葉を集めてすぐに駆け寄ると、
「ちょっと傷があるけど、大丈夫そうだね」
三匹をまだ若い桑の木のそばまで連れて行くと、葉っぱを敷き、その上に乗せた。
「もう住んでいた木はなくなっちゃったけど、ここは
「じゃぁ、わたしは行くね。燃えているところには近づいちゃだめだからね」
わたしは逃げるようにその場を後にした。
繭の中には蛾になろうと一生懸命成長している
それを素材のために持って帰るのだから、
でも、戦意のない無害な生物から、面白半分に命を奪うようなことはしない。
素材は余すことなくちゃんと使ってくれる人にだけ渡す。
それだけは、心に留めておきたいと、固く誓った。
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