第6話 冒険

「お、おい! 勇者たちが町を出るみたいだぞ!」

「で、でもなんだあの豪華な装備⁉」

「銀……じゃない⁉ まさか、伝説のミスリル⁉」

 町を出る際に書類を書かされたが、その間に俺たち勇者パーティーが出発するという噂を聞きつけ、見物客が殺到した。

連中は俺たちがみすぼらしい姿で出発するところを見たかったようだが、実際に見たのはミスリル装備で全身を固めた姿だ。この中では俺が一番しょぼい装備かもしれない。

「さて、町を出たわけだが、一つ問題がある」

「何でしょうか?」

「どうしたの?」

「食料がないから、魔物を狩らないと今日の飯がない」

 しまったな。金貨を何枚か残しておいて食料を買っておくんだった。《作成》で水や食料を作ることはできない。

 神々の使う魔法の中にはパンやワインを《作成》する魔法もあるらしいが、人間の間には存在しない。俺の研究テーマの一つでもあった。

「お任せ下さい。必ずや獲物を仕留めて参ります」

「任せといて。こーんな大物を採ってくるから!」

 エルマは手を広げて大物をアピールしているが、おそらく無理だろうな。レベルというものがある。それは、魔物や人族、魔族などを殺すと上がる。簡単な強さの数値だ。

 もちろん。レベルが低くても十分な技術があったり、装備が良かったりすると強いこともあるが、基本的にレベルが高い程強いということになる。

 そして、《鑑定》で二人のレベルを見てみるが、二人ともレベル一だ。これではスライムくらいしか倒せないだろう。

 まあ、今回は俺の《作成》したミスリル装備があるから、何とかなるか。こういうのはパワーレベリングという行為で、技術が身につかないからやめた方がいいのだが、今回はしょうがないな。俺の魔力もかなり減ったし。

「分かった。俺はここら辺に腰かけて待っている。三人分の美味い獲物を期待しているぞ」

 正直言えば《透視》や《遠見》を使って覗き見たい。が、配下を信じ、落ち着いて待つのも上に立つ者の役目だ。ここは信じて待とう。


 俺は芝生の上に寝転んで、雲の流れを見ながら昼寝していると、人の足音が聞こえた。軽い足音が二つだ。カザリとエルマだろう。

 流石に昼寝して待ってたというのも格好悪い。石の上に仰々しく腰掛け、ずっと待っていた感を出す。

「ルビア様、獲物を狩ってきました」

「えへへ~凄いでしょ?」

 二人が自慢してきたのは、狐のような魔物だ。肉もちゃんと付いていて、中々食えそうだ。

「おお、よくやったな二人とも」

 俺はカザリの片手剣を借り、狐の魔物を適当に捌く。二人はもうかなり疲れていたので、今回の料理は俺がする。

「二人とも、料理はできるか?」

「すみません。できません」

「やったことないな。食べる専門」

 どうやら二人とも料理はできないようだ。まあ、俺の料理に不満があれば自然に身に着けるだろう。

 という訳で、肉を串に刺して焼く。串は木の枝を折ったもので、火は流石に魔法で出した。

「美味しくな~い!」

 まあ、ただ焼いただけだからそうだろうな。調味料も使ってないし。

「せっかくルビアが私たちのために作ってくれた料理です。文句を言ったりしたら罰が当たります」

 焼いただけだから別に気にしなくてもいいのだが、これ以外に食べるものはない。空腹が嫌なら食べてもらおう。別に自分で木の実を採ってきてもいいが。

「さて、飯を食ったし寝るか。見張り順を決めるぞ」

 三日寝ないと死ぬからな。昔はよく研究に没頭して徹夜して、家臣たちに叱られたものだ。

「ゆっくり寝たいから、まずは私が見張りをするわ!」

「いいだろう。最初はエルマだな」

「私は最後でいいです。ルビアはゆっくり寝てください」

 カザリの好意は嬉しいが、知らないな。三人で見張りをする場合、真ん中が一番つらいんだ。中途半端にしか寝られないからな。別に構わんが。


「ルビア~。そろそろ変わって~」

 エルマが俺の身体を揺する。もうそんな時間か。

「ああ。ここからは俺が引き継ぐから、エルマは寝るといい」

「うん。おやすみ~」

 エルマは狐から剥ぎ取った毛布を被って眠りにつく。さて、どうするか。俺は何かが近づいてきたら気配で分かるから、真面目に見張りをする必要はない。

 せっかくだし、必須な魔法を指輪に《付与》しておくか。寝て魔力も回復したしな。

 そういえば、カザリの鎧下とエルマの鎖帷子を作るんだったな。《作成》でミスリル製の鎧下と鎖帷子をサクッと作る。鎧下と鎖帷子の様な見えない部分はミスリル製でなくてもいいかとも思ったが、ここまで拘ったのだから最後まで拘り抜きたい。それに、エルマは何かとミスリルを気に入っているしな。

 さて、後は大人買いした銅の指輪に何の魔法を《付与》するかだが。

 まずは《発火》の魔法だな。今日みたいに食事の度に一々俺が魔法を使って火を付けるのは効率が悪い。

 それから《強化》か。今回の戦闘で二人のレベルは多少上がったが、魔法使いのいるパーティーは戦闘前に《強化》《防御》をパーティーメンバーに掛けるからな。

 というわけで、三つ目は《防御》。今はこんなところか。

 この三種類の指輪を三つずつ用意する。俺には必要ないが、自分一人だけ特別扱いというのも不満が出そうだし、急遽パーティーメンバーが増えた時に備えて俺が持っておけばいいだろう。

 こんなところか。そういえば、ここの世界は一体前世から何年ぐらいたっているんだろう。王都を旅立った時にミスリルは伝説の金属みたいなことを誰かが言っていたから、もしかしたら俺が転生した後に魔法金属が採れなくなったのかもしれない。だが、それで供給量が減ったとしても、人間には《作成》の魔法がある。作成でミスリルを作り出せば、僅かでも流通するはずだ。しかし、この時代の人族は《作成》の魔法も知らないようだった。

 これが人族が間抜けだからだと嘲笑するのは簡単だ。だが、人族と魔族は互角に渡り合って来た。人族だけが弱体化したのなら、魔族が滅ぼさない理由がない。実際、人族は魔族を殺そうと俺という勇者を送り込んでいる。

「先行きは暗いな……」

「ルビア。どうかしましたか?」

 気が付くと、カザリが横から俺の顔を覗き込んでいた。気配感知に集中しすぎて、近くに来たのに気付けなかったか。カザリが隠密スキルに長けているのか。いや、現実逃避は止そう。俺の腕が鈍っているのだ。人族との戦争中だったらこの失態は命取りだ。

「いや、悪い。ちょっと考え事をしていてな。起こしてしまったか?」

「いえ、そろそろ見張りを変わろうかと」

 焚火を見ると、もうだいぶ火が小さくなっていた。確かにもう変わってもいいくらいの時間が過ぎていたようだ。考え事をしていると時間を忘れてしまう悪い癖か。

「そうか。なら俺は眠る。カザリ、見張りを頼んだぞ」

「はい。お任せください」

 今しがた作った魔法道具をカザリに渡しておいてもいいが、同時じゃないとカザリを贔屓したみたいにみえるからな。

 パーティーを組む上ではそういう小さなところも重要なのだ。

 そんなことを考えながら俺の意識は現実から離れていった。


「ルビア! 朝だよ‼」

 翌朝、いきなりエルマに上から乗られ、目が覚めた。

「エルマ。朝から元気だな……」

 俺は起きると同時に、ポケットに入れていた魔法道具をエルマに渡す。

「それぞれ《発火》《強化》《防御》の魔法が付与されている。受け取れ」

「わあ! ありがとう‼」

 エルマは笑顔で俺の作った魔法道具を受け取ると、いそいそと指に嵌めた。

「カザリもな」

「はい、ありがとうございます」

 カザリの指には既に《翻訳》の指輪が嵌っている。それは必要なものではあるが、その分カザリは付けられる指輪が減る。

 《付与》は何も指輪だけにしかできないわけではない。最悪、カザリに貸している鎧や剣盾兜なんかに《付与》すればいいのだが、それだと常に装備しておくことが難しくなる。

 指輪やピアスなら常に装備しておけるからな。

「ああ、あとエルマには鎖帷子、カザリには鎧下を用意した。使ってくれ」

「わあ、ありがとう!」

「ありがとうございます」

 言うが早いか、エルマもカザリも今着ている服を脱いで、鎖帷子や鎧下を着始めた。

「一応、俺がいるんだが?」

「なに、恥ずかしがってんの?」

 俺が目のやり場に困っていることに気付くと、エルマは裸で抱き着いてきた。

 俺には前世の記憶がある。俺からしたら肉体的には同年代位のエルマでも十分ガキだが、だからといって見たり触れたりしてもいいかというと、それは違うだろう。

「わ、私も……‼︎」

 カザリもエルマに対抗してか、裸で抱きついてきた。前世では魔王だったから女性経験は豊富なつもりだが、どちらかというとそれは世継ぎを残す目的が強かった。愛し合った結果そうなったことはなかったと思う。

「お前ら、恥ずかしくないのか?」

「別に、スラムでは身体を売ってた子もいたし、皆で川に水浴びに行ったりしたし」

 二人の羞恥心に働きかけるのは無理そうだ。

「いいから服を着ろ!」

 俺が大きな声で怒鳴ると、流石に二人はやりすぎたと思ったのか、服を着た。

「ルビアってこういうのは嫌い?」

「ん〜。嫌いなわけじゃないが……」

 若い頃は女の尻を追いかけては腰を振っていたような気もするが、前世も含めれば俺の年齢はかなりのものだ。流石に萎えたというか。

 それに、転生者である俺に子供ってできるのだろうか。仮にできたとして、遺伝子は前世と今世で違うのかもしれないしな。

 言いにくそうにしている俺を見て、二人は何かを察したのか、それ以上は踏み込んでこなかった。

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