私の18きっぷ旅行記

ぬくり

東海編

往路

 今日も私は列車に乗る。まるで現実から逃れようとするように。


 今日の目的地は名古屋だ。大阪駅を6時前に出る。私は夏になるとよく旅に出る。これが私の青春である。学校では決して送れない、楽しいひと時がこの旅にはあるのだ。列車の座席に座って何をするのかと言えば、たいていの場合はこの先の旅程を考える。名駅に着いたら東山線に乗って伏見駅まで行き、そこで鶴舞線に乗り換えて上前津駅で降りる――そんな想像を巡らせるのが何よりの楽しみである。そうこうしているうちに列車は大津を出る。ここからは沿線の高校に向う学生の姿も目立つようになる。車内の雰囲気もがらりと変わった。友人と楽しそうに語らっている者も多い。別に彼らのことが羨ましいなんて思ってなんかはいない。私は私なりの青春を謳歌するだけだ。


 米原駅でJR東海の列車に乗り換える。その内装を見ると、自分が東海圏に入ろうとしているという実感がわいてくる。列車はゆっくりと米原駅を発車した。この列車は大垣駅までであるが、そこまでの40分というのは正直暇である。その間、私は自分について考える。私には生活能力がまともにはない。そして対人関係もあまり得意ではない。おまけに、計画の策定やその実行というのも苦手だ。そんな自分はこの先どう生きていけばいいのだろうか――そんな風に悲観的になることも多々ある。しかし、そんな卑屈な思考は解決される時を知らぬまま次第に薄らいでいく。そう、大垣駅到着のアナウンスがあったのだ。


 大垣駅からはラストスパート。いよいよ名駅が近づいてきた。ここまでくると先ほどのような思考とは打って変わって、今日の行程に対する高揚感でいっぱいになる。この時間だけは現実を忘れられるのである。岐阜駅からは子どもたちが乗ってきた。みんな元気いっぱいで羨ましい。木曽川駅を出てしばらくすると名鉄線との並走区間に入る。私の乗る列車が名鉄の赤い列車を抜かした――この瞬間、車内にいた子どもたちが一斉に歓声を上げた。これを見て私は、父に連れられて初めて新快速に乗った日のことを思い出すのである。車内の彼らはまだ興奮冷めやらぬ様子で、それが昔の私にそっくりでとても懐かしい気分になった。


 稲沢駅からの複々線を颯爽と駆け抜け、列車が庄内川を渡ろうとした頃、まもなく名駅に到着する旨のアナウンスがあった。私はこれを受けて身支度をする。ここからの流れはもう予習済である。扉が開くと同時に勢いよく飛び出す。高揚感の高まる私は、地下鉄名古屋駅へと駆け下りていった。

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