第4話  旅立ち 3

 翌日、引っ越しセンターのトラックは九時到着予定が10分程早く到着し業者の二人がやってきた。


 見るからに力のありそうな筋骨隆々の腕をしている。程よく日焼けしていている腕はなんとも男性らしいとよっ子はどきりとした。


 次から次に荷物をトラックに詰め込んでいく姿は勇ましくて惚れ惚れしてしまう。


 車で駆けつけてくれた先輩も手早く荷物を運んでくれ予定よりも早く積み終わりそうだ。


 幸二も頭にタオルを巻いて奮闘しているのだが、全然役にたっていない。


「僕、あんまり、お役に立ってない気がするよ。真紀ちゃん」


「そうみたいね。普段、あんなに重たいもの持たないからね」


 慰める真紀子、それに比べて先輩の動きは機敏で素晴らしく男前である。


「おい!よっ子!これ本だろ!何冊入れたんだよ。重すぎるだろが!」


 ドスをきかせた声に、2人の業者と幸二は目を向いてフリーズした。


 ガッチリ体型でリーゼントヘアー眉毛は薄く、奥二重で鋭い目つき、街を歩けば自然と道が開けとても歩きやすくなる。


「あはは……。先輩、ここ会社じゃないので、よろしくお願いします」


 よっ子は真紀子を見ると唖然としていて口がぽかんと開いている。

 よっ子の視線を感じた真紀子は、


「ねぇよっ子、あの人、会社の先輩なのよね」


 と心配そうに言った。


「そうよ」


 とあっけらかんと応えるよっ子。


「なんだか、怖い感じの人ね」


「そうかな?見た目はちょっと怖いかも……でも、とっても良い人よ。昔、ヤンチャしてたんだって、昔の話だけど」


「ヤンチャって、まさか暴走族とか」


 真紀子はよっ子の耳を手で隠し囁いた。


「おい!よっ子、なんか言ったか!」


 声はよっ子に向けられているけれど、視線は真紀子を捕らえている。


 その鋭い目つきに真紀子は慄いて思わずよっ子の背中に隠れた。


『地獄耳だな先輩』とよっ子は肩をすくめる。


「なにも言ってません!母さんは危ないから隅っこに座ってて」


 と真紀子を隅っこに押して椅子に座らせた。よっ子は軽めの箱を持って階段を下りる。9月下旬でも残暑は厳しく全身汗まみれになった。


「これで積み終わりました。私たちは後に着いていきますので」


 階段を上り下りした男たちは額の汗を軽く拭き取りながら素早く元気に階段を駆け下りる。


「よっ子、俺、先に」


 と指で下の方を差した。


「はい」


 3人は荷物の運び出された何もない部屋の真ん中にたち、


「荷物がなくなると広く感じるわね」


「真紀ちゃん、よく頑張ったね。よっ子ちゃんも真紀ちゃんを助けてよく頑張りました。これからは僕がいるから、頼ってください、よっ子ちゃん、マジで僕、お父さんだからね

遠慮なんかしたら許さないぞ!」


「ありがとう。幸ちゃん、このアパート、名残惜しいけど、そろそろ行くわ」


 昨夜泣くだけ泣いたよっ子は既に気持ちを入れ替えて前向きに歩き出している。


「そうね。業者さんたち待ってらっしゃるし」


「真紀ちゃん、階段、気をつけて」


 昨夜と同じように2人は真紀子をサポートして階段をゆっくりと下りた。


「じゃあ、母さんを頼みます」


「はい!頼まれました」


 幸二は手を垂直に挙げて言った。


「よっ子、無理しないのよ。我慢なんてしなくていいんだからね。何かあったら、すぐうちに来るのよ」


「はい!母さん」


「川越さんにお礼言わなきゃね」


 幸二は川越に走り寄って行った。それを見つめるよっ子と真紀子、真紀子は汗ばむ額をハンカチで拭いた。


「母さん、今までありがとう」


「こちらこそ、なんだか、よっ子がいないのって耐えられるかな」


「なに言ってるの。幸ちゃんがいるし、赤ちゃんも生まれてくる。私は私で頑張るから、母さんは幸せになる事、ねっ。ずっと一人で頑張って来たんだから」


「よっ子、ひとりじゃないわ、あんたが居てくれたから頑張れたのよ」


 母と子は抱きしめあって、アパートを見上げた。


「川越さん、お世話になりました。これからも娘の事お願いします」


「はい、任せてください。変な男が近寄らないように、オレら全員でよっ子は死守しますんで」


「全員?死守!あっはい!そんな気持ちでよっ子ちゃんを思ってくれてるんですね」


 川越の手を両手で握り締めて、深く頭を下げると、


「あっ!どうも」と慌てて川越も幸二と同じくらい頭を下げた。二人は同時に顔を上げ見合って微笑み合う。


 よっ子は川越の運転する車に乗りんで、思いっきり笑顔で2人に手を振った。


「じゃあ、行ってきます」


 幸二も真紀子も目頭を抑えている。


「いいか、出発するぞ」


「はい、お願いします」


 遠くに引っ越すわけではないけれど名残惜しい気持ちで窓の外を眺めた。懐かしいこの景色とも今日でもってお別れである。


 川越はバックミラーを除き込むように後ろのトラックを確認した。


「着いてきてるな。なあ、よっ子、お前の父親。スッゲー若くねえか?」


「そうですね。川越さんんて何歳いくつでしたっけ?」


「俺、36」


「同い年ですね」


「はあ?同い年、だったら、お前を何歳の時つくったんだよ」


「それ、マジで言ってます?」


「おお!超マジ!大マジに決まったんだろが」


「川越さんて、社長や大介さんにいつも言われてる。お前は馬鹿か!って本当に馬鹿なんですね」


「お前、犯すぞ」


「怖い〜。犯すなんて、やだ〜」


 両手をグウに握って両頬にくっつけてかわい子ぶって言った。


「かわい子ぶっても無理だつうの、全然可愛くねえから、お前みたいなチンケな貧乳女、好みじゃねえし。犯すなら、もっといい女、選ぶわい」


「チンケな貧乳女ってひどい!そこまで言わなくたっていいじゃないですか!母さんの再婚相手なんです。さすがに川越さんだって10歳で女の人としないでしょ」


「しないってなにを?」


「なにをって、えっ?わかってるくせに」


「ねえ、なに?なに、しないの?」


「しつこいですね。SEX!」


「お前、最近、平気でエグイこと言うようになったな」


「自分で言わせといてよく言いますね。あの会社に3ヶ月もいれば、鍛えられますよ。鍛えてくれたの川越さん達でしょうが」


「俺達って、俺じゃあねえだろ。東山の金さんだろが」


 東山と書いてひがしやま、名は金太郎、東山ひがしやま東山ひがしやま東山とうやまと読み替えて東山とうやまの金さんとみんな呼んでいる。


 






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