第5話. 蛇の王

 ふふ……良~い緊張感だ。

 視えてるんだろ? てめぇにも、

 周りとはの違う姿がなぁ。


 最近目覚めた能力だ。

 アタシは本当に、この体に生かされている。



 アタシの家は、貧乏だった。

 その上、子だくさんでアタシは長女、5人姉妹弟だ。


 でも両親は明るく優しかったし、アタシは幸せだった。

 貧乏ってさ、買える物は少ないけれどその分、家族の絆は深まる気がするんだ。


 アタシにがあると判ったら、両親とも少し困ってた。

 

 結局アタシは半獣人になり、家は月並みな生活が送れる様になった。

 ただ、アタシと家族は離れ離れになった。


 幸せってさ、自然と同じで、どっかで釣り合いが取れてんのかもな。

 だからアタシは、今の自分を目一杯エンジョイする事にした。

 この体の特性を目一杯利用して。


「君の体には、素晴らしい“血”が混じってる。うまく目覚めると良いなぁ」


 そんな事言ってたのは、はっちゃん。

 アタシの手術に携わった科学技士の兄ちゃんだ。


 実際、訓練後の身体検査じゃ「獣化遺伝子の発現連鎖 特A。適合度 特A。ランク 特A」と診断された。


 因みに“特A”なんて基準はそれまで無かった。

 だから検査官はアタシを“天からの授かり物”と評してた。


 アタシがエンジョイ出来るのは、この体のお陰。

 だから偶然とは言え、はっちゃんには感謝している。


 けれど、本当に凄い“血”を自覚したのは、つい最近の事だった。



 漸く姿を現わした奴は、鎌首をもたげアタシを見下ろしていた。

 体温から大きさは察していたが、間近で見ると迫力が違う。


 面白ぇ!


 戦斧を握る手に力が入る。

 体が熱い。燃えているみてーだ!


 大蛇はアタシをジッと睨んでいた。

 すると、


Shiiisyasshii Syahaaa!


 ノイズの様なその不気味な響き、驚く事にアタシの頭はそれを言葉と理解した。


Shuhuuou Syahaaah!(効くかよっ、んなもん!)


 アタシは“蛇語”で返していた。

 すると続けて奴はアタシに話しかけて来たんだ。


「驚いた……主ぁを使えるのかえ? わっちの催眠も効かぬとは、おかしおかし、いとおかしじゃ」


 奴の視線がふとずれた。

 だがそれは体を大きく捻り、鋭くしならせた尻尾をぶつける為だった。


ビュオォォッ!


 しゃらくせえっっ!!


 アタシは両手で握った戦斧を頭上より、唐竹割に振り落とす。


「うりゃあぁぁーーっ!!」


 燃える様な体の灼熱が、握りを伝いその刃先を、焼け付く炎と化していた。


ズバッ! ジュウゥゥゥ……


 別断れたその切り口は黒く焼け焦げた面となり、尻尾がまるで生きてる様に苦し気に大地の上をくねらせていた。


「クフフフ、主の強さ正に“伝説級”。主ぁ憎き“血”を持っとるのぅ。許し難きあだがたきじゃ。欲しい、欲しいぞぉ。必ず主を喰ろうてやるわ。そしてわっちが王と替わるのじゃ」


「けっ!王だか何だか知らねーが、一昨日来やがれっ!!」


「わっちの下へ早う来い。標は付けようぞ。寄り道するなよ? 主らを襲う奴など居るまいて」


 そう言って、奴は静かに退いていった。  

 どうやらアイツはアタシの血の主を知ってるらしい。

 しかもどうやらその主と因縁もある様だ。


 面白れぇ。


 アタシは目の前に現れる敵をぶっ潰すだけ。

 だってそれが、アタシのだからな。


 

(続く)

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