(2)旅の準備

 旅に出る。


 目標が定まってから私の行動は早かった。

 品川のアパートを解約すると、家具を売り払ってわずかな荷物だけ持って実家へ戻った。続いてアウトドアショップやリサイクルショップを巡り、旅に必要な装備を整えた。

 最終的に私が揃えた道具は以下の通りである。



・バックパック

 ドイツのメーカー『deuter(ドイター)』製。容量は50ℓ。

 近所のブックオフで新品が中古販売されていたので迷わず購入。バッグと背中の間に空間ができる作りになっており、暑い中背負い続けても蒸れずに快適。


・サブバッグ

 色々悩んだ結果、盗難防止に定評があるブランド『Pacsafe』のショルダーバッグを選択。A4のノートパソコンがギリギリ入るサイズ。


・Tシャツ

 ユニクロの速乾性シャツを3枚購入。寝巻き用に背中に『至誠』と書かれたTシャツも持って行くことにした。

※『至誠』……この上なく誠実なこと。まごころ。幕末の思想家吉田松陰が座右の銘とした言葉。


・ズボン

 七部丈パンツ、ジーンズ、寝巻き用のアジアンっぽいゆるゆるパンツの3着。


・下着

 パンツ3着、シャツ3着。

 ちなみにトランクス派。


・フリース

 日本のアウトドアブランド『モンベル』製の薄いフリース。

 暑い国に行く場合もホテルの中はガンガンに冷房が効いていることがあるので必須。


・ポンチョ

 背負ったバッグも覆い隠せる大きなタイプ。雨の日に行動しなくてはいけない時に。


・簡易洗濯袋

 基本は手洗いになるので『スクラバウォッシュバッグ』という製品を購入。衣服と洗剤を中に入れて揉んで洗う。ちょっと高かった。


・洗濯ロープ

 洗った洗濯物を吊るして乾かすロープ。代用はできるがあると便利。


・寝袋

 安宿だとベッドに南京虫が住み着いていることもあるので、野宿をしない場合でも必須。


・PC

 MacBook Air。すでに5年使い続けているが、まだまだ現役。


・スマホ

 iPhone13 pro。多分、自分が持っている物の中で一番高価。盗まれないか心配。


・電動シェーバー

 『izumi』製の小型シェーバー。コンセントが内蔵されていて便利。


・変換プラグ

 日本の電化製品を海外のコンセントでも使えるようにするプラグ。父親から借りた。


・モバイルバッテリー

 ドミトリーの部屋では充電できない場合もあるので持っていると安心。


・リンスインシャンプー

 花王製。


・石鹸

 花王製。体を洗うだけではなく、衣服の洗剤代わりにも。


・化粧品

 無印良品の『オールインワンジェル』。化粧水・乳液・美容液が一つになっている。


・爪切り

 ダイソーで購入。忘れやすいが、長期旅では必須アイテムだと思う。


・正露丸

 お腹の調子が悪い時はこれ。海外の食べ物はお腹に合わないことも多いのでよくお世話になる。


・コンタクトレンズ

 いつもは2weekだが、1dayのタイプを大量に購入。結構な荷物になるので裸眼が羨ましい。


・スキットル

 蒸留酒を入れる携帯用の小型水筒。これでウイスキーを飲むと旅気分に浸れる。

 今回は『ラフロイグ』というアイラウイスキーを入れた。強烈なピート(泥炭)臭が特徴。



 もう少し細々とした物もあるが、ざっとこんなところである。


 装備の補充と並行して進めていたのが、旅のルート決めだ。細かく旅程を立てるつもりはないが、少なくともスタート地点とゴール地点くらいは決めた方がいいだろう。


 コロナ禍が一時収まりつつあることで、入国規制の撤廃を始めている国も多い。特にヨーロッパ諸国はいち早く緩和に舵を切っていたことで、ほとんど全ての国で自由に入国ができるようだ。

 アジアもタイやベトナムなどが次々と規制を解除し、観光客の呼び戻しに力を入れている。しかしインドなど一部の国はガチガチに規制を続けていた。


 おかしなこだわりかもしれないが、私は旅をする時はすごろくのコマを進めるようにちょっとずつ移動したいと考えている。例えば日本からタイに入った後、飛行機でいきなりヨーロッパに飛んでしまうよりは、タイ→ミャンマー→バングラデシュ→インド……と地続きで進んで行く旅に面白さを感じるのだ。


 地続きの旅がしたいなら、比較的規制が緩いヨーロッパに近い国を“振り出し”にするべきだろう。

 Googleマップとにらめっこしながら最初に目星をつけた国はトルコだった。

 トルコは6月1日に入国制限措置を全面撤廃したとニュースで見た。楽に入国できるし、船でエーゲ海を渡ってギリシャに入ることも容易だ。


 これでスタート地点は決まったと思っていたのだが、考えが変わる出来事があった。

 大学時代の友人と会話をしていて、旅についての話になった。私が最初の国をトルコに決めたと伝えると、友人は「自分もトルコに行きたいと思っていた」と賛同してくれた上で「せっかくだからエジプトも回ったら?」と付け加えたのだ。


 改めて地図を眺めてみると、トルコとエジプトは地中海を挟んで向かい合う距離に位置していた。二つの国を関連して考えることがなかったので、意外な近さに驚いた。


 エジプト。


 一般的にこの国の名前を聞いてイメージするのはピラミッドやスフィンクスだろう。あるいはアブ・シンベルなどの神殿も有名だ。

 だが、連想するそれらは全て古代エジプトの産物である。今現在、エジプトに何があるのかを私は知らない。日本と聞いて「サムライ」や「フジヤマ」を思い浮かべているようなものだ。

 知らないことを自覚した途端、急にエジプトに興味が湧いてきた。

 エジプトにはピラミッド以外に何があるのか、探してみるのも面白いかもしれない。


「いいね。エジプトに行ってくるわ」


 友人と別れて家に帰った私は、早速『スカイスキャナー』でカイロ行きの航空券を調べた。

 値段も片道8万前後。そう高くはない。迷わずポチリ。

 かくして私は旅の始まりとなるチケットを手に入れた。


 出発日は7月18日。


 なぜ7月18日だったのか?

 周辺の日にちで一番航空券が安いのがこの日だったというだけである。

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